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風景 - 季節が流れていく様は面白いよね。
マスターがぽつりと漏らした。 私は庭に散らばった落ち葉を掃除しながら、そうですか、と答える。 「生き物の無常さと強さを感じられるよ」 はぁ、と答えながら、私は落ち葉を掃き続ける。 掃いても掃いても降り落ちてくる枯葉。 確かに無常だ。情け容赦ない。 人間ならこの作業にそろそろ飽きてくる頃だろう。 ちなみに私がこの作業を始めてから、既に1時間と25分経過している。 そんなに細かくやらなくていいよとマスターに笑われ、 ようやく私はその作業を止めてもいいことを知った。 応用性をもう少し持たないと、と、自分で自分に言い聞かせつつ、 マスターにお茶を用意しようと台所へ移動する。 庭に戻ると、マスターは落ちてくる落ち葉を見上げて佇んでいた。 「寒くないですか、そろそろ気温が下がってくる時間帯ですが」 「いいや大丈夫……ん、ありがとう」 お茶を渡すと、彼はゆっくりとそれをすすった。 君も飲むかいと勧められたが、丁重にお断りした。 基本的に飲料などは必要ない。 一応そちらからもエネルギーを取り入れることは可能であるが、 摂取しなくてもさして問題はないのだ。 ただ、彼らと食事を共にする時は、 彼らが望むので、私も食べているが。 「そんなに一生懸命働かなくてもいいんだよ」 お茶を三度程口に運んだ後、彼はぽつりと呟いた。 「それは、私が必要ない、ということでしょうか」 意味が分からなかった私は、自分なりに解釈して言葉を返す。 彼は違うよ、と苦笑する。 「頑張り過ぎなくていいよ、ってこと」 はぁ、と私は返す。 そうは言われても、それはそれで加減が難しい。 それに、私は仕事をする為にここにいるのだ。 別に頑張っているわけでもなく、 それが自分の義務だから行っているだけなのだ。 それに私が疲れを感じることはない。 呆れたりはするが、それはその場限りのもので、 人間のように仕事に響くようなことはない。 けれど、それを説明しても、彼は笑って、 「それでも、たまにはゆっくりとさ」 そう答えた。 「季節の変わり目を見て、何かを感じてみたり。 空の青さに感動してみたり、 落ち行く枯葉を見て命の儚さを哀れんでみたり」 「風流、というものですか」 「そんな感じだね。でも、言葉だけ知ってても意味ないから」 「はぁ」 「寂しくなるもんだね、この季節は」 彼の言うことは、いちいち的を得ていないような、 どうも曖昧な表現が多く、私には理解できない事柄が多かった。 言葉だけ、とはどういうことだろう。 どうしてこの季節は寂しいのだろう。 しかし、尋ねてもきっと彼は、いつものように笑うだけで、 はっきりと答えてはくれないのだろう。 お茶を飲み終えると、彼は仕事仕事、と呟きながら部屋に戻っていった。 先程彼が見上げていたものを、私も同じ位置に立って見上げてみた。 いくつもの枯葉の向こうに、青い空が見えた。 彼はこの景色を見て、何を感じたのだろうか。 同じ位置から眺めても、きっと私には彼と同じように感じることはできない。 哀れむとすれば、自分が人間ではないことだろうか。 よく、分からない。 自分には理解できないことが多過ぎる。 どうすれば、もっと分かることができるのだろう。 そして、それを理解することは、 私には必要なのだろうか、不要なのだろうか。 しばらく思考により時間を費やした結果、 気付けば、足元にはまた落ち葉が溜まっていた。 頑張るな、とは言われたものの、雑然とした状態を放置しておけないので、 私はまた掃き掃除に戻った。 今度は加減を間違わないように。 そうして季節は流れて行く。 思えば、私がマスターとこのような雑談をしたのは、 数える程度しかなかった。 彼はいつも仕事に没頭していて、私から話し掛けるのははばかられた。 頑張るなと言っていたのは自分なのに、マスターはずっと頑張っていた。 何が彼をそうさせていたのだろう。 もっと多く言葉を交わしていれば、私はもう少し何かを知り得たのだろうか。 しかし、時間はただ確実に過ぎるだけで、戻りはしない。 ただただ進んでいくだけだ。マスターが言ったように、無常に。 そしてそれは、私が起動してから、ちょうど一年目のことだった。 ≪ - ≫ ∠long ∠index |