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早く記憶を取り戻したい。

そう言った私を、医者は複雑そうな目で見つめてきた。

何か問題があるのだろうか、不思議に思い、私が尋ねると、

医者はしばらく躊躇った後、珍しく饒舌に語り出した。


「確かに記憶は大事だ。その人の生きてきた証とも言えるのだから。

だがしかし、戻った記憶がすべて自分にとって都合のいい記憶とは限らないよ?

むしろ、忘れてしまいたい記憶があったから、今の状態になったのかも知れない。

なくしてしまった記憶は戻らない。

けれど、新しく記憶を作って、生きていくこともできるのではないかな。

そうやって過去に執着して生きていくことは、悲しいことかも知れないよ」


医者の言っていることは、尤もだと思った。

過去の記憶が、私にとって都合のいいことばかりではないだろうし、

また、記憶を取り戻すことで、私は此処にいる理由を失ってしまうかもしれないのだ。

しかし、と、私は少女からもらったお守りを握りしめる。


「それでも、私は記憶を取り戻したい。

今までの自分がどんな人間だったのか。

どこに行こうとしていたのか。

何をしたかったのか。

私は、もっと私を知りたい。

そして、できればその過去を、私が見てきた世界のことを、

あの子にも聞かせてあげたい」


あの子、という単語を聞いて、医者は苦笑の様な、歯痒そうな表情を浮かべた。

もちろん、医者にもあの子のことは話してあった。

私の想いを知っている彼としては、恐らく難しい立場なのであろう。

けれど、説得(と言うのだろうか)を続ける内、彼もとうとう折れた。

私の根気勝ちだった。


「それだけ元気になったなら、きっと大丈夫だね」


苦笑する医者を見て、何が大丈夫なのかは分からないが、

そうですねと答える自分がいた。




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