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記憶喪失に関しては専門ではない、と言っていた割に、

それからの医者は、随分と医者らしいことをしてくれた。

催眠術の類で記憶を取り戻そうとしたり、

カウンセリングのようなことをしてみたりと、

何故今までそのようなことをしなかったのか、不思議に思う。

とにかくその成果なのか、私は徐々にいろいろなことを思い出し始めていた。

私の名前、友人の名前や、様々な知識。

釣りの知識もその中にあった。

何故もっと早く思い出せなかったのか、悔しい気持ちが浮かぶ。

これで少しは魚が釣れるだろうと思ったのだが、

しかしそうもいかなかった。

どうやら私に足りないのは、知識ではなく才能だったらしい。

落ち込みはしたが、ならば努力で補うしかないだろう。

そう考えを切り替えられる程に、気力は湧いてきていた。

記憶が蘇ってくる感覚は、まるで朝日が昇ってくるような気持ちだった。

光が世界に満ちていく。

無気力だった頃には、考えられなかった感覚だった。

しかし、いまだ少女に話せるような記憶は取り戻せないままだった。


「いずれ戻りますよ。焦らないで」


そっと手を握り、少女はそう言ってくれた。

そのたびに、申し訳ないような、けれど嬉しいような、そんな気持ちになった。

いつかきっと。

そう考えるたび、力が湧いてくる。

これが希望というものなのだろうか。

それはとても幸福な感情だった。

だが、何故だろう。

同時に、どこからともなく不安な気持ちがやってくるのは。

朝日が昇ってくるということは、同時に、陰の存在を知ることになる。

その時の私は、そのことに気付けはしなかった。


「新しい自分が消されてしまうという恐怖があるのかも知れないね」


医者に何となく相談してみたところ、そのような答えが返ってきた。

なるほど、確かにそうかもしれない。

不安の正体はそれだったのか。

私は、差し出された答えを、疑うことなく受け入れた。

まるで、他に存在するかも知れない答えの可能性から、目を背けるように。

医者の言葉を信じた私は、どこからともなくやってくる不安から目を逸らし、

記憶を取り戻すことに全力を投じた。

ただ、少女の為に。

それが、僕の願いであり、支えであった。



そして、その日は訪れた。




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