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7 - 翌日、私はまだ日も昇りきっていない内に、浜辺に着いた。
どれだけ早く起きようと、漁船に追いつくことはできなかったが、 それでも少女よりは早く起きられることが何度かあった。 どうやら私にも、少女の言っていた、習慣というものが身についてきたらしい。 そして今日も無事、少女より早く起きることができた。 今日の場合は、単純にあまり眠ることができなかっただけだったのだが。 この高揚感は、一体何と言う名前なのだろうか。 その答えが出る前に、背後に人の気配を感じて振り返る。 「おはよう」 「おはようございます…今日も早いですね」 そう言う少女は少し眠たそうだった。 「君の方こそ」 そう笑った私に、 「貴方には負けます」 少女は苦笑した。 地元の人間より早く起きられるようになったことが、少し嬉しかったが、 しかし今はそれよりも、期待と不安の占める割合の方が大きかった。 果たしてどんな顔をするのだろう。 私のように喜ぶのだろうか。 それとも、大した物ではないと、失望するだろうか? 少女に限ってそれはないとは思うのだが、 しかし、私の選定眼が、彼女のそれよりも遥かに低かったならば? もしもそうだったなら、彼女を落胆させてしまうのではないだろうか。 なら、最初から渡すべきではないのだろうか。 いやしかし、やはり礼はしないといけない。 だったら、もっと別の物を用意すべきだろうか。 不安を感じ始めてしまうとそれは止まらず、私の中でぐるぐると渦巻き、 その結果、渡すべき時期を見失ってしまった私がいた。 妙な沈黙が生まれてしまい、そしてそれを打開できない。 不甲斐ない、とはこういうことを指すのだろうか。 それでも私達の1日はいつも通り始まった。 今日は釣りの日だった。 少女の持ってきた竿を受け取り、黙って糸を垂らす。 糸を垂らしつつも、私の思考は、もちろん釣りになど向いてない。 そんな私を見て、少女は何故か、クスクスと笑った。 何が可笑しいのか、尋ねると、 「餌、ついてませんよ?」 その指摘に、自分がどれだけ他の事で頭が一杯だったか気付き、 思わず顔を熱くしてしまう。 情けない。 私はこんな人間だったのだろうか? 過去の私がいたならば、どうか教えて欲しい。 そんな、照れやら恥ずかしさやら不安やら、 いろんなものがごちゃごちゃになり、 いよいよ訳が分からなくなった私は、 「これ」 勢いのまま、首飾りを少女に差し出していた。 直後、後悔が私の頭で一杯になる。 もう少しまともな渡し方があったのではないか、 せめてもう少し気の利いた渡し方があっただろうに。 しかし、それはもう今更だ。 差し出した手を、引っ込めることもできず、 私は彼女の顔を見ることもできないまま、石のように固まってしまった。 沈黙。 後悔。 それと、わずかに、期待。 答えは、永遠とも思える程に長い、数秒後に返って来た。 「これ、私に?」 声は出さずに、ただ頷く。 おずおずと、少女は私に、手を伸ばす。 やがて、その手が私の手から首飾りを掴むと、 ゆっくりと、自らの首にかけて見せた。 「似合いますか?」 頬をわずかに染めて、少女はそう口にする。 似合うよ。綺麗だ。 そんな気障な言葉は、私には言えない。 だから、ただ黙って頷く。 そんな自分がもどかしい。 きっと、もっと気の利いた言葉を用いた方が、 誰かを喜ばせることができるだろうに。 けれど、それが自分なのだから、仕方ない。 そう、仕方ない。 今までなら、そう考えて簡単に諦めて、それで終わりだったのに、 今日は何故だろう、そんな自分を嫌だと感じる自分を、少なからず感じた。 しかし、そんなことは、次の瞬間には、忘れてしまっていた。 何故なら、 「こんな綺麗な物を、ありがとうございます」 深々と頭を下げ、心の底から嬉しそうに笑う少女が、そこにいたからだ。 いろんな想いが、報われた。 不安も、期待も、そう何もかも。 その笑顔の為に。 「こちらこそ、ありがとう」 自然と、言葉は零れていた。 その後、やはり沈黙の中、2人で釣りを続けた。 けれど、その沈黙は、先程までのものと違い、とても居心地のいいものだった。 ≪ - ≫ ∠long ∠index |