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翌日、私はまだ日も昇りきっていない内に、浜辺に着いた。

どれだけ早く起きようと、漁船に追いつくことはできなかったが、

それでも少女よりは早く起きられることが何度かあった。

どうやら私にも、少女の言っていた、習慣というものが身についてきたらしい。

そして今日も無事、少女より早く起きることができた。

今日の場合は、単純にあまり眠ることができなかっただけだったのだが。

この高揚感は、一体何と言う名前なのだろうか。

その答えが出る前に、背後に人の気配を感じて振り返る。


「おはよう」


「おはようございます…今日も早いですね」


そう言う少女は少し眠たそうだった。


「君の方こそ」


そう笑った私に、


「貴方には負けます」


少女は苦笑した。

地元の人間より早く起きられるようになったことが、少し嬉しかったが、

しかし今はそれよりも、期待と不安の占める割合の方が大きかった。

果たしてどんな顔をするのだろう。

私のように喜ぶのだろうか。

それとも、大した物ではないと、失望するだろうか?

少女に限ってそれはないとは思うのだが、

しかし、私の選定眼が、彼女のそれよりも遥かに低かったならば?

もしもそうだったなら、彼女を落胆させてしまうのではないだろうか。

なら、最初から渡すべきではないのだろうか。

いやしかし、やはり礼はしないといけない。

だったら、もっと別の物を用意すべきだろうか。

不安を感じ始めてしまうとそれは止まらず、私の中でぐるぐると渦巻き、

その結果、渡すべき時期を見失ってしまった私がいた。

妙な沈黙が生まれてしまい、そしてそれを打開できない。

不甲斐ない、とはこういうことを指すのだろうか。

それでも私達の1日はいつも通り始まった。

今日は釣りの日だった。

少女の持ってきた竿を受け取り、黙って糸を垂らす。

糸を垂らしつつも、私の思考は、もちろん釣りになど向いてない。

そんな私を見て、少女は何故か、クスクスと笑った。

何が可笑しいのか、尋ねると、


「餌、ついてませんよ?」


その指摘に、自分がどれだけ他の事で頭が一杯だったか気付き、

思わず顔を熱くしてしまう。

情けない。

私はこんな人間だったのだろうか?

過去の私がいたならば、どうか教えて欲しい。

そんな、照れやら恥ずかしさやら不安やら、

いろんなものがごちゃごちゃになり、

いよいよ訳が分からなくなった私は、


「これ」


勢いのまま、首飾りを少女に差し出していた。

直後、後悔が私の頭で一杯になる。

もう少しまともな渡し方があったのではないか、

せめてもう少し気の利いた渡し方があっただろうに。

しかし、それはもう今更だ。

差し出した手を、引っ込めることもできず、

私は彼女の顔を見ることもできないまま、石のように固まってしまった。

沈黙。

後悔。

それと、わずかに、期待。

答えは、永遠とも思える程に長い、数秒後に返って来た。


「これ、私に?」


声は出さずに、ただ頷く。

おずおずと、少女は私に、手を伸ばす。

やがて、その手が私の手から首飾りを掴むと、

ゆっくりと、自らの首にかけて見せた。


「似合いますか?」


頬をわずかに染めて、少女はそう口にする。

似合うよ。綺麗だ。

そんな気障な言葉は、私には言えない。

だから、ただ黙って頷く。

そんな自分がもどかしい。

きっと、もっと気の利いた言葉を用いた方が、

誰かを喜ばせることができるだろうに。

けれど、それが自分なのだから、仕方ない。

そう、仕方ない。

今までなら、そう考えて簡単に諦めて、それで終わりだったのに、

今日は何故だろう、そんな自分を嫌だと感じる自分を、少なからず感じた。

しかし、そんなことは、次の瞬間には、忘れてしまっていた。

何故なら、


「こんな綺麗な物を、ありがとうございます」


深々と頭を下げ、心の底から嬉しそうに笑う少女が、そこにいたからだ。

いろんな想いが、報われた。

不安も、期待も、そう何もかも。

その笑顔の為に。


「こちらこそ、ありがとう」


自然と、言葉は零れていた。

その後、やはり沈黙の中、2人で釣りを続けた。

けれど、その沈黙は、先程までのものと違い、とても居心地のいいものだった。





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