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ある日のことだ。

いつものように少女と浜辺を歩いていると、

少女が少し恥ずかしそうに照れながら、

私に何かを差し出してきた。

何だろうと受け取ると、綺麗な貝殻のついた首飾りであった。


「何て名前なのかは知らないのだけど、綺麗だったから」


そう言う少女に、その貝の名を教えてやると、少女は非常に喜んだ。

初めて私が講師の立場になれた瞬間だった。

嬉しくないと言えば嘘になる。

つまらない記憶しか残っていないと思ったが、捨てたものではなかった。

ヒモを通して、首から下げられるようになったその貝殻を、


「いつか記憶が戻るように、お守り」


少女は、そう言って私の首にかけてくれた。

その期待に応えられたらいいのに。

ぼんやりと、そう思った。

記憶が戻ったなら、私が昔見てきたであろう、

外の世界の話を彼女にすることができる。

その話は、きっと彼女が喜ぶものに違いない。

ならば早く記憶が戻ればいい。

やり方は分からないけれど。

少女からもらったその首飾りを、自室に戻ってからも何度も眺めた。

昔の私は、こんなに綺麗な物を見たことがあるのだろうか。

そう感じられる程、その貝殻は、私の目を捕えて離さなかった。

傍から見れば、きっと何の変哲もない貝殻だろうに、不思議だ。

どうしてだろうと悩んだが、答えは出なかった。

出ない答えにいつまでも悩んでいても仕方ない。

私の執着のなさは、相変わらずだ。

それよりも、私は重要なことに気付いた。

もらい物をされて、何も返さないのでは礼儀に反するのではないか、

つまりは何かお返しをした方がいいのではないか、ということだ。

何か彼女に渡せる物はないだろうかと考えるが、

しかし私の手元にも、そして頭の中にも、彼女に渡せそうな物は何もない。

困り果てた私は、医者に相談してみることにした。

私の話の一部始終を聞いた医者は、ふむ、と頷いた後、


「ならば、行商人に頼むといい」


医者の話によると、この村にはたまに外から行商人が物を売りに来るらしい。

実際に売りに行くのは別の街らしいのだが、その途中でこの村に寄ってくれる、

親切な行商人だということだ。

確かに、こんな小さな村では、自給自足だけではやっていけないだろう。

医者も、食料などはその行商人から購入しているらしい。

私は、その行商人が来るのを待ち侘びた。

自分にもそのような感情が残っていたのか、と、不思議に思う。

それとも、戻ってきたのだろうか。

失った過去の私が。

少しずつ。

かつての私はどんな人間だったのかは分からないが、

少なくとも、今よりは活気に満ちていたに違いあるまい。

でなければ、一人旅などしないはずだ。

今の私には、旅に出ようと言う気はおろか、この村から出て行こうなどという気力は、

これっぽっちも湧いて来ない。

それは、単に、今の私に意欲がないからなのか。

それとも、この村の居心地がよいからなのか。

きっと、その両方なのだろう。

とりあえず、行商人を待つのを楽しみにするくらいには、

何かに対する意欲は出てきていた。





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