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4 - 次の日、私は昨日よりも早く浜辺に向かった。
しかし、やはり舟は既に出発した後だった。 どれだけ早起きをすればいいのか。 早起きの為に一生懸命になれる人達が少し羨ましかった。 「今日も早いんですね」 唐突に後ろから呼びかけられ、驚き振り返る。 少女は昨日と同じような格好で、そこに立っていた。 ただ、その手にはいつものザルはなく、代わりに釣竿が握られていた。 「君の方こそ」 「私のは、ただの習慣です」 恥ずかしそうに照れて笑う少女を見て、 なるほど、習慣にすればいいのかと、変なところで納得する。 今日は貝を集めないのか、と尋ねた私に、 少女は、「今日は釣りです」と、その手に持っていた釣竿を掲げてみせる。 しかし不可解なのは、その手に握られている釣竿が、2本あったことだ。 釣りとはそれぞれの手に1本ずつ釣竿を持って行うものだったのだろうかと、 自分の少ない記憶を総動員して思い出そうとしたが、 そんな記憶は見つからなかった。 私は釣りをしない人間だったのだろうか、 それとも釣りに関する記憶が欠落しているのだろうか。 そのどっちでもあるような気もするし、そうでないような気もした。 疑問に思っていたのが顔に出たのだろうか、少女は微笑んだ後、 「今日も来てるんじゃないかって思ったんです。 よかったら、一緒にどうですか?」 どうやら私の知識は間違ってなかったこと、 そして釣竿をわざわざ私の為に用意してくれたらしいことを理解し、 そのわずかな心遣いを察して、いい子なのだな、と、ぼんやり思った。 「釣りは初めてですか?」 「さぁ、ちょっと思い出せないかな」 何気なく返したのだが、少女はしまった、とでも思ったのか、 即座に「ごめんなさい」と頭を下げた。 私はジョークのつもりで言われたと感じていたので、 謝られて逆に動揺してしまう。 どうも私と彼女の中では、どこまでが冗談なのかという線引きが違うらしい。 「気にしないでいいよ、こっちも気にしていないから」 そう言って、にこっと笑ってみせると、ようやく彼女は頭を上げた。 上手く笑顔が作れているか少し不安だったが、 彼女は作った表情だとは気付かなかったらしい。 よかった、と安心して見せる少女の顔を見て、こちらも安心する。 そのまま気を取り直して、少女に釣りのやり方を教わった。 餌のつけ方、どの辺りに魚はいるのか、食いついてきた時の合わせ方、 釣り上げた後の針の外し方など、一から丁寧に教わっていく。 教わりはしたのだが、しかしそれで実際釣れるかと言うと、全然、だった。 たまにアタリは来るのだが、上手く合わせられない。 おまけに、餌を取られたことにさえ気付かないで、 針だけをマヌケにたらしたまま10分以上過ごしたりした。 少女はと言うと、今日も私に魔法を見せてくれた。 まるで魚が少女に吸い寄せられているのではないかと錯覚してしまう程、 少女の竿の先には魚がかかってくるのだ。 負けじと頑張ったつもりだが、結局釣果は上がらなかった。 「そんな日もありますよ」 照れたように苦笑してみせる少女が、非常に羨ましかった。 どうしたらそんな風に釣ってみせることができるのか。 既に私の心の中の認識は、彼女を魔法使いとして捉えていた。 そのことをそのまま口にすると、 少女は昨日と同じように、「覚えれば誰でもできますよ」と、笑って見せた。 本当にそうなのだろうか、そう疑う私に、少女はちょっと考えた後、 「焦らずに、待つことが大事ですよ」 そう伝授してくれた。 確かに、私の釣りには落ち着きが足りなかったかもしれない。 焦らずに、待つ。 それは、私の記憶にも言えることなのだろうか。 尤も、そのことに関しては全く焦っていない私がいたのだけれども。 自分でも不思議に思う程、私には記憶に関する執着がなかった。 何故だろうとは思うけれど、 真剣に悩むことではないか、と、あっさりと考えを捨ててしまう。 私には何かが欠落している。 それが何なのか、しかし答えは出ない。 答えに対する執着すら。 いろいろと考えてはいるつもりではあるのだが。 その後3時間程、2人で雑談をしながら釣りを続けた。 少女は大漁。 私は収穫なし。 そういうことをボウズと呼ぶのだと、少女が教えてくれた。 知識が1つ増えたことを喜ぶべきか否か、私は迷ったが、 とりあえず喜ぶことにした。 ≪ - ≫ ∠long ∠index |