どこまでも続く空の間で #8 -


「まいどー」

いまいち調子の出ないマイマシンを操りつつ、どうにか配達を終えた。
さすがに午前中ほどの無茶な運転はしないまでも、
考え事をしないで済むくらいには飛ばしたというのに、気分はどうにも晴れない。
マシンの調子が悪いせいだけではないだろう。
エンジンを切ったエアバイクに跨ったまま、俺はぼんやりと考えた。
キールの言葉について。

(野蛮人、か――)

そう考えるのが当たり前なのだろうか?
そりゃ確かに、環境はよくないし、俺達エデンの人間には多分生きていけないし、
そんなところで暮らしてるような人間なんて信じられないのかも知れないけど。
けど、でも、やっぱ、なんつーか。

「俺は納得できねーんだよなぁ」

そう、納得できない。
そりゃ確かにエデンに比べたらとんでもない場所だ。
本来人間が住まうところでない空。
そこに、人間はかつての地上以上に住み心地のいい環境を作り出した。
空気も、水も、そして天候までも全てを常に快適に。
ソレに比べて、現在の地上、ロストは、まさに全てを廃棄した世界だ。
何もかもやりっぱなしで、置き去りにして、腐敗した、そんな世界。
だがしかし、それほど悪い場所ってワケでもない気がするのだ、俺は。
そして、そこに住む人々も。
いや、俺が知らないだけでホントは滅茶苦茶危ないヤツばっかなのかもしんないけど。

「少なくとも、カシスだけは違ったわけだし」

そうだ、カシスは違った。
だったら、ロストの他の人間だって、悪い人じゃないかもしれないじゃないか。
それを自分で確かめるまでは、周りの言葉になんて納得できない。
よって、ロスト立ち入り禁止なんてクソ食らえだ。
俺は何事も自分で確認しなきゃ気がすまない人間なのだ。
百聞は一見にしかずとも言うし。
キールの言うことは大抵間違っちゃないんだけど、
それでもやっぱり納得できないものは、できない。
それに。

「約束、したしな」

そうだ。約束。また会いに行くって、約束した。
約束は、守らないといけない。
仕事をする上で最も大切なコトは、相手の信頼を裏切らないこと。これ鉄則。
ならば、約束は第一に守らねばなるまい。
だから、俺はまたロストに行く。あの子に会いに行く。

「バレなきゃ大丈夫…だよなぁ、多分」

その為には今まで以上に仕事を早く終わりにしないとダメだ。
会いに行って戻ってきても、不自然じゃないくらいに。
まだ全然言葉を交わせていない。いろんな話を、聞いてみたいし、してみたい。
…そういや、まだ会っただけ、なんだよな。
なんでこんなにモヤモヤと考えるんだか…
まぁ、いいか。会えばスッキリするし。
その為に、とりあえずは。

「この機体を、ちゃんと直さないとだよなー」

時々爆発音のようなものが混じる、怪しげなエンジン音。
…そういや、最後にちゃんとメンテしたのいつだっけ。
あぁ、相棒。すまないな、帰ったらちゃんと見てやるからな。
その声に返事するかのように、エンジンがぼふっ、と奇妙な音を立てた。
うん、変なナビゲーターの声なんぞより、こっちのがよっぽど生の声って気がする。
とりあえずは安全運転、と思いながら、俺はフラフラと事務所へと帰還した。





その後、事務所にてキールとどうにか整備を終え(なんだかんだとグチを食らった)、
夜もとっぷり暮れた頃になって、俺はようやく家に帰った。
明かりの灯らない家に帰るのは、何だか寂しいものがある。
慣れてしまえばどうということはないのだが、
今日はいろいろあったせいか、いつも以上に寂しく感じた。
この家には、自分しか住んでいない。
空き家だったのを見つけ、借りて住んでいる。
両親は、いない。生きてるのか死んでるのかも知らない。
何でも、生まれてすぐに孤児院に預けられたらしい。
考えてみれば、ロストに捨てられていてもおかしくはなかった。
孤児院行き、ということは、要らない子どもだったのかもしれないから。
けれど、ロストには捨てられなかった。
一応、人としての情はあったのだろう。
それだけでも俺は幸せ者だ。
もしかしたら、後で引き取りに来るつもりだったのかもしれないが、
結局何年経っても迎えは来なかった。
もう俺のことは忘れているかもしれない。
それは寂しいことなのかもしれないが、寂しさは感じない。
俺にとっての故郷はあの孤児院でしかなく、
生んだ両親は、赤の他人も同然だった。
血の繋がりだなんて、何の意味もない。
そして俺はそのまま成長し、孤児院を出て、いろいろあった後、今に至っている。
両親について、たまに考える時がある。
事情があったんだろうな、ぐらいにしか考えてないし、
恨んだりもしていなかった。
けれど。
捨てる、ということは、どんな気持ちになるのだろう。
捨てられた側のことを、考えたりするのだろうか。
可哀想に、などと同情を?
…それは、随分と自分勝手な感情だ。
一方的に切り捨てられた側はたまったものではない。
ロストに生きている人々も、そう思っているのだろうか。
キールの言っていたように、恨みを持っているのだろうか。
それは当たり前のことなのだろう。
けれど、どこか空しい。
それはきっと、捨てた側に、その気持ちが届かないから。
どれだけ憎くても、相手はきっと受け入れやしない。
そもそも、眼中にすら入ってないだろうから。
いろいろと考えている内に、眠くなってきていた。
やはり俺には、うだうだと考えるのは合わない。
ただでさえ1日いろいろあって疲れているのだ、今日はもう寝よう。
襲ってくる睡魔にそのまま飲まれつつ、俺はあの少女のことを思っていた。
あんたは、どう思ってるんだろうな。
明日、会いに行こう。そう決めて、そしてそのまま、夢の世界へと旅立った。






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