どこまでも続く空の間で #2 -


「おっそいぞクゥ!」

職場に到着するなり、出迎えの怒声。
短く刈り上げたハリネズミみたいな髪の毛が、怒りで逆立っているように見える。

「何言ってやがる、コレでも、人ハネ飛ばす勢いで来たんだぜ?」

エアバイクを車庫に納め、ゴーグルを取り外しながら、俺はいつもの軽口でキールに言った。

「アホ。ホントにハネ飛ばしたらお前はクビだぞ」

いいから早くしろ、と言われて、ヘイヘイと頷きながら、
俺は事務所兼キールの家に入り、自分の机に荷物を置いて腰を落ち着けた。
全く、別にそんなに仕事があるわけでもなし。
いや、全くなくても困るワケだが。
俺とこの男、キールは、便利屋を営んでいる。
何をしてるのか、と言われたら、まぁいろいろだ。
探偵の真似事みたいなこともするし、力仕事の手伝いを任される時もある。
なんて言っても、もっぱらの仕事は、エアバイクを使った配達業。
ていうか、配達業以外の仕事はほとんど請け負ったことはない。
さっき言った仕事も、それぞれ数えるほどしか請け負ったことはない。
だから便利屋ってのも名前だけ。配達屋、に名前を変えてもいいくらいだ。
まぁその辺はポリシーって言うか何ていうか、そんな感じで便利屋を名乗っている、らしい。
仕事仲間であるキールとは、もう長年の付き合いだ。
俺が何も考えずにエアバイクを走らせて遊んでいたガキの頃、
突然やってきたこの男に、腕を見込まれたのか、
「一緒に便利屋をしてみないか」と、誘われた。
エアバイクを走らせることができる仕事なら、文句はない。
そんな経緯で、俺はキールと組んで働くことになった。
便利屋、配達屋等、名前は多種在るが、そんな仕事はこの世界には結構な数で存在している。
空には大小様々な島が浮かんでおり、中心となる場所には『大陸』という馬鹿でかい島がある。
それらを結ぶのは、数本のケーブル。
ケーブルを伝って他の島に行くこともできるが、
急ぎの時は皆エアバイク等の乗り物を使う。
当然、速さを優先する宅配業は、皆乗り物を使うわけだ。
乗り手の技術により配達速度がだいぶ変わるこの仕事、
当然顧客はより安全で確実、そして何より速い会社を選ぼうとする。
どこの会社も、顧客を掴む為に、よりよいドライバーを育てることに余念がない。
ウチのような個人でやってるところはなおさら大変、なのだが。
ウチはドライバーの腕前がいいのか、結構安定している。
まぁ、俺の右に出るようなヤツは、この辺じゃそうそういやしないからだろうが。

「なーにニヤけてんだ」

ドサリ、と、重たそうな小包をいくつか俺の前に置きつつ、キールが呆れた声を漏らした。
げ、顔に出てたか?

「な、何も?それよか、コレ?今日の仕事」

誤魔化すように、俺は目の前の小包群を指差した。
見慣れたそのブツには、この周辺の住所とそこの住人の名前が記入されたシールが貼り付けられていた。

「そ。超特急で届けてくれたまえ。ウチは速さがウリなのだからな」

「ま、俺の腕がいいからな」

「調子乗ってんなよ。そーいうこと言ってると、足元すくわれるぞ?」

「大丈夫大丈夫、俺ってば努力は怠らないし」

「じゃあ朝起きる努力もして欲しいもんだな?」

ぐっ、痛いところを…

「…最善を尽くそう」

「そうしてくれ。あと、エアバイクの点検も。お前サボリがちだろ?
アレは結構ナイーブな作りしてんだ。
お前みたいな運転してると、その内イカれるぞ?」

「ヘイヘイ、その内ね」

全く、年寄りの小言は聞いてたらいつまで続くやら。
まぁ怒ってもらえるヤツがいてくれる内が華、なんだろうけど。
しかしやっぱり小言は聞いていても気持ちよくはない。
俺は目の前の小包を鞄に放り込むと、逃げるように立ち上がり、再び車庫に足を向けた。

「あ、それとこれ、住所録な」

後ろからキールの声、それとほぼ同時で後頭部に投げつけられた何かがぶち当たった。それもカド。

「…物を投げてよこすクセ、やめろよな」

ヒリヒリとする後頭部をさすりながら、落ちた住所録を拾う。

「最善を尽くそう」

俺の口真似をして、キールがヒラヒラと手を振った。こんにゃろ。
まぁいい、いつものことだ。それよか、仕事仕事っと。
住所録をパラパラとめくり、大体のルートを決めると、俺はエアバイクのキーを回した。

「さって、ハネ飛ばす勢いでいきましょーかねっと」

ゴーグルを目に当て、一気にアクセルを回す。
まだ冷め切っていなかったエンジンが、再び稼動音を上げる。
その音に満足しつつ、俺は周辺の家よりやや高台に位置するキールの家から、落下するように発進した。





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