そして -


人間は時とともに年老いていく。
姿は似ていても、私にはそのようなことはない。
せいぜいメンテナンスが必要なくらいだ。
そして、彼はロボットではない。
時とともに顔の皴は増え、体が弱り、衰えていく。
そして、死ぬ。
科学がいくら発達しても、それだけは逃れられない運命だった。
子供の頃とは違う、白髪だらけの頭。
私の介助なしではろくに動けなくなった体。
それでも彼は、笑う。
子供の頃と変わらぬ顔で。
その姿を見るたび、何故だろう、私はとても物悲しい気持ちになるのだ。
自分の知っている者が、弱っていく。
けれど自分にできることは何もない。
その、何と無力なことか。
だけど、それは仕方がないことだ。
彼も言っていた。納得もできる。
けれど私は、悲しかった。
その理由は、他にもある気がしたが、分からなかった。
ただただ、悲しかった。
けれど、それが理由で仕事に支障をきたしてはならない。
私はただ働き続けた。
彼の為に。
彼が最後まで、寂しくないように。

いよいよ寿命を全うする、その時がきた。
彼はほとんど布団の上から動けなくなっていた。
起きている時間も、少なくなっていった。
ベッドの上から、弱々しい声で、彼は言った。

「僕が死んだら、あの丘に埋めてくれないか」

それが最後の頼みだった。私は勿論了承した。
彼が寂しさを感じないようにするには、それが一番であることは、言われずとも分かっていた。

「置いていくことになって、すまない」

最後にそう謝り、彼は事切れた。
さようなら。
そっと私は呟いた。

骨になった彼を、私はあの丘へと運ぶ。
彼の両親の眠る、あの丘へ。
私は丁寧に穴を掘り、彼を埋める。
二つだった山が三つに増えた。
そして私は立ち尽くす。
よく晴れた空だった。
彼も、マスターも、こんな空が好きだったことを思い出した。
きっとマスターの妻も好きだったに違いない。
木々のせせらぎや、風の優しさに、素直に感動を覚える。
彼らとの日々は、今も私の頭の中に色褪せることなく全て刻み込まれている。
その日々を、改めてゆっくりと思い返す。
彼らは果たして、幸せだったろうか。
私は役目を果たせたのだろうか。
それらは察することしかできず、確定事項ではない。
けれど、一つだけ確かなことがある。
彼らに仕えることができて、自分はとても幸福であったと。
ロボットである自分を、まるで人間のように扱ってくれたことに、私は感謝していた。
その温かさが、とても心地よかった。
幸せだった。
そう、私は幸せであった。
彼らにとっても、そうであって欲しかった。
顔が濡れていることに気付き、触れてみる。
涙を流す機能があったことを、私は初めて知った。
こんな機能、必要ないだろうに、何故つけたのだろう。
これも、人間らしさの演出だろうか。
ああ、だが今はそれに感謝する。
何故なら、私は今、とても、
寂しいから。
寂しさというものを、知ることができたから。
戻れない日々が、幸福感が押し寄せてきて、胸が引き裂かれそうになる。
もう会うことも話すこともできない。
あの笑顔を見ることも。
それは、とても痛くて、辛くて。
彼らも、こんな感情を抱えて生きてきたのか。
それは何と辛いことなのだろう。
私はそれを知らず、のうのうと隣に立っていただけだった。
彼らが苦しんでいる傍で、私はただ己の仕事を全うすることしか頭になかったのだ。
だからなのだろう、私が寂しさを最後まで知ることがなかったのは。
こんな感情は、ロボットである私には、必要のないものだから。
だから。
いまや時代の遺物である私を、誰も引き取ろうなどとは思わないだろう。
ましてや、このような不要な感情を持っているロボットを、誰が欲しがると言うのか。
こんな感情は、きっとバグでしかない。
私は、欠陥品になってしまった。
ならば、せめて私もその時を迎えるまで、ここで静かに暮らして行こう。
彼らと過ごしたこの家で、この場所で、ゆっくりと時を重ねて行こう。
けれど、寂しさは、もう必要ない。
この感情は、これからの長い時間を過ごさなければならない私には、辛過ぎるから。

ゆっくりと目を瞑る。
データの削除・初期化。完了まで残り三十秒。
最後の時間で、私はまた思い出す。
走馬灯のように、記憶が流れていく。
そこには、彼らの笑顔があった。
ああ、幸福だった。
幸福故に、寂しくて。
私のようなモノを、彼らは『誰か』だと言ってくれた。
温かかった。
私にはない人の温もりを、彼らは私に与えてくれた。
また彼らに会いたいと、そしてその時がいつまでも続いてほし

「削除完了」


無機質な機械音が辺りに響く。
先ほどまで、感情を持っていたヒトはそこにはもうおらず、
ただただ無表情なキカイがそこには存在しているのみである。
やがてそのキカイは、
この三つの丘に秘められた特別な意味すら忘れ、静かにその場を去って行き。
そして、誰もいなくなった。




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