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1 - 目を覚ますと、視界には薄汚れた天井が広がっていた。
体の上に薄い掛け布団がかけられていたこと、 また、体が仰向けであったことから、 自分が今まで眠っていたことを知った。 周りの様子を見ようと起き上がると、視界の端に、白衣を着た男の姿が見えた。 「あぁ、気付いたのかい?」 無精髭をたくわえた、木こりのような中年の男性。 白衣を着ていなければ、その印象のお陰で間違いなく木こりだと思っていたであろう、 その男性は、人懐っこい笑みを浮かべてこちらにやってきた。 「…ここは?」 私は、自分が今いる場所がどこなのか分からず、その答えを彼に尋ねた。 尋ねた後で気付いた。 そもそも私が、何も覚えていないことを。 「ここは…街外れの寂れた村だよ」 どこか焦点をずらされた答えであったような気がしたが、 とりあえず人里ではあるらしい。 「私は、どうしてここに?」 白衣を着た男は、無精髭を、ぞり、と撫でながら、説明してくれた。 「どうもこの村の近くに倒れていたらしくてね。 それを村人が発見して、ここまで運んでくれた。 後で礼を言うといい」 「…そうですか」 「行き倒れなんて珍しいな。どこに行こうとしていたんだい?」 「…わかりません」 「…ふむ?」 訳知り顔、と言ったような表情を浮かべる男性を尻目に、 私は首を動かし、周囲の様子を見る。 先程まで男性が座っていた机の隣に古びた窓があり、 そちらから村の様子を窺うことができた。 本当に小さな農村の様で、活気がない。 畑もあるにはあるが、何となく荒れているように見える。 ふと、どこかで見たことがあるような風景のような気がした。 何の記憶もないのに、不思議だった。 もしかしたら、似たような風景を、かつてどこかで見たのかもしれない。 「何も覚えていないのかい?」 しばらくの沈黙の後、男性が声をかけてきた。 「…そうみたいです」 「自分の名前も?」 「…えぇ」 言葉は喋れるのに、記憶がない、という事態に、 自分のことながら変な話だな、と、何の感慨もなく思った。 「そうか。ならばしばらくこの村でゆっくりしていくといい。 今は弱っているし、それに、その内記憶を取り戻すかもしれない」 「…ありがとうございます」 随分と優しい人だ、と、やはり感慨なく思った。 その後、しばらく雑談をした後、私は再び眠りについた。 そうして、初日は終わった。 - ≫ ∠long ∠index |