***  ANNIVERSARY  *** -
ハナ
様より頂きました


彼と付き合い始めて、初めての私のバースデイに、彼は、花を贈ってくれた。
豪華な花束じゃなく、ガーベラ3本と、カスミソウだったけど、嬉しかった。
ずっと取っておきたかったのに、ガーベラはドライフラワーにはできなくて、
少しでも長く。と、毎日茎を少しずつ切って、最後はお皿に張った水に浮かべて
飾っておいた。

2回目のバースデイのプレゼントは、彼の部屋の合鍵だった。
「彼女に合鍵渡すのって、初めてなんだけど…」
って、渡してくれたのが、すごく嬉しかった。
直接にではないけど、「特別」って言われたようで…。


けれど、付き合って3年近くもなると、誕生日なんて、どうでもよくなるのかも
しれない。
「誕生日なんだよ。」ってアピールしなかった私も悪いのかもしれないけど、
「今夜、飯食いに行くか。」って言われたから、実はちょっと期待してた。
あぁ、私の誕生日、ちゃんと覚えてくれてたのね。って。

なのに、どうして居酒屋?
別に、居酒屋が悪いとは言わない。
賑やかで、気楽だし、料理だって安いし。
彼も私も、飲む方だから、ヘタな所に行くと、会計の時、眩暈起こしそうになる
し。

でも、何かが違うような気がする。
大体、私の服装からして、合っていない。
まさか居酒屋だとは思わなかったから、気合い入れて着て来てしまった、
彼が「可愛い。よく似合う。」って言ってくれたワンピース。
久々に、デートだからと、メイクだって気合い入れて、
下地造りも入れたら、1時間ちょっと掛ってたり。
唇だって、ちゃんとライン引いて、ちゃんとブラシ使って塗って、
グロスでツヤツヤにして来たけど、きっともう、取れてしまってる。
香水だって付けて来たけど、きっともう、タバコの匂いの方が強くて、
どんな香りだったかも分からなくなってると思う。

彼は、誕生日って分かってて、ココを選んだのだろうか?
だとしたら、なんだか安く上げられたって気分が否めない。
今までのプレゼントより、お金はかかってるかもしれない。
でも、私が言いたいのは、金額じゃなくて、気持ち。
私に対する彼の気持ちが、安く感じられてしまう。
近場でお手軽に済まそうって言うような…。

やけっぱちな気分で、飲んでいると、不意に目頭が熱くなる。
勝手に期待して、勝手にガッカリしてるって、もの凄く勝手な理由だと自分でも
分かってる。
分かってるけど、空回りした自分が悲しくなって、頬を次々と涙が滑り落ちる。
急に涙を落とした私を前に、彼はちょっと焦ったように、
「どうした?」「気分悪いのか?」って話しかけてくる。
どうもしない。気分だって悪くない。
ほんの少し悲しくなっただけ。
私の涙を拭う指先の優しさが、益々涙を落とさせる。

「出よう。」

会計を済ませた彼に手を引かれ、タクシーに乗りこむ。
彼の肩に乗せた私の頭を、彼の手が優しく撫でる。
何も言わずに黙って髪を撫で続ける彼に、申し訳ない気持ちになってくる。
優しい彼に、これ以上、何かを求めるのは、きっと、欲張りってやつだと思う。


てっきり彼のアパートに向かうんだろうと思っていたタクシーが、街中で停まる


「…飲み直そうか。」

手を引かれるまま、タクシーを降りると、一軒のショットバーのドアをくぐる。
顔見知りなのか、彼は気さくにバーテンに話しかける。

「あれ、出してくれる?」
「あれですね。」

カウンターに並んで座った彼と私の目の前に、
背の高いフルートグラスが滑るように出てくる。
中身は、薄っすらピンクで、泡の立つ液体。
その中には大き目のピンクの角砂糖が1つ沈んでいる。

「乾杯」

グラスを上げた彼につられるように、私もグラスを上げる。
一口口に含むと、弾ける泡と同時に、口内にパッと香りが広がる。

「…美味しい。」
「だろ?」

華やかな香りと味に、私の気分も、自然と華やいでくる。
笑みが零れるようになった私に、彼も微笑みかける。
彼と2人でシャンパン飲んでるなんて、最高のバースデイ。
グラスの3分の2程飲んだところで、
傾けたグラスを、何かで擦るような音に気づき、グラスの中に目を凝らし、
シャンパンを飲み干すと、形の崩れた角砂糖をナプキンの上に出す。

「…これ……」

彼が砂糖の塊から取り出したものを、自分のハンカチで拭う。
私の左手を取ると、薬指にそれを滑らせる。

「誕生日おめでとう。」

誕生日のプレゼントにしては大き過ぎる石が、光をキラキラと拡散させる。
世界中の女性を虜にしてきたであろう輝きが、私の事も魅了する。

「…これ……もしかして……。」
「そう。――――俺と同じ苗字になってくれる?」
「……――――もちろん…喜んで。」

頬を滑る彼の手に、またも涙が溢れていた事に気付く。
彼の手が、優しくて、暖かくて、エンゲージリングの光る左手を、彼の手に添え
る。
彼の手よりも、もっと優しく暖かい唇が、私の唇に重ねられる。
店内の他人の視線も気にならない。
今、この瞬間、世界中で、私より幸せな女性はきっと居ない。

来年から、私の誕生日は、彼がプロポーズしてくれた記念日になる…。



                          2003.9.9 アキ様へ。











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