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のぼる - 螺旋階段をぐるぐると上る。
特に当てがあるわけではない。 ただ目の前に螺旋階段があった。 だから上る。上り続ける。 どうでもいいが「のぼる」という漢字は種類が多すぎる。 統一すればよいのではないか。 時々どれを使っていいのかわからなくなり、辞書を引く羽目になる。 電子辞書などというこじゃれたものを持っていない僕は、 いつも小さめの冊子体の辞書を持ち歩いている。 「のぼる」という漢字の為だけに持ち歩いている。 いや果たして本当にそうなのか。 僕はたかが「のぼる」の為だけに、こんな辞書を持ち歩いているのか。 非効率的だ。だから違う。 最終的に行き着くのが「のぼる」というだけで、 もちろん他の用途にも使っている。 分からない漢字があればすぐに引いている。きっと引いている。 普段枕代わりになどしていない。 それは辞書としての使い道から大きく外れてしまっている。 たまに、どうしても枕が見つからない時にだけ枕として使っているが、 それ以外は本来の用途として用いている。 決してパラパラマンガなどを作ってはいない。 アレはノートでやるものだ。 辞書などでやったら超大作になってしまう。 ただひたすらに螺旋階段を上り続けるだけのパラパラマンガくらいしか作れないだろう。 そうだ、僕は階段を上っている。ただひたすらに上っている。 上る。 いい言葉だ。上昇志向の表れのようにも感じる。 だからひたすらに上る。僕は上る。上るしかない。 下を見る気がしない。下を見たら落ちるだけだ。 もうどれだけ上ったのだかわからないくらいに上った。 僕は上り続けた。 そうだ、だから下を見てはいけない。 きっともう地面も見えないくらいに上ってしまっている。 だから下を見てはいけない。決して見てはいけない。 見たら最後だ。僕は落っこちてしまうだろう。 本当に? 本当だとも。 柵があるのに? あぁ、それすら突き破って落ちてしまう。 そうか、だったら上るしかないな。 僕はただ上だけを見続けて上り続ける。 螺旋階段はどこまでも続いていた。 天井などないかのように、どこまでもどこまでもぐんぐん伸びている。 一体何の用途で作られたのか。 階段と言えば建物を上る為に作られるものだが、 螺旋階段は違う気がする。 そう、ただ上り続ける為だけにあるのだ。 スペースを最小限に、ひたすら上に上る為だけに作られた、 非常に洗練されたデザイン。 故に、上り続ける為だけにあるのだろう。 僕は上る。ただただ上る。 カンカンカン、と小気味のよい音が響き続ける。 他に聞こえるのは僕の呼吸音だけだ。 大気が薄くなっている気がする。 しかしそれでも階段は終わらない。 どこまでもどこまでも続いている。 僕はぐるぐると回り続ける。 回っているのにいつの間にか上っている。 何の為に? 何の為にだろう。 そうだ、そこに階段があったからだ。 だから僕は上るんだ。 のぼるといえば。 小学生の頃、そんな名前の同級生がいた。 いい名前だと思う。 だが、ソイツはとにかくぼーっとした性格だったので、 のぼーとかそんなあだ名で呼ばれてた。 後ろから叩いても、全然気付かないような、そんなやつだった。 面白がって何度も叩いていたら先生に僕が叩かれた。 いい思い出だ。 そんなあいつもこの前結婚したらしい。 今度子どもが生まれるとかそんなことを人づてに聞いた。 のぼるのくせに。 のぼってもいないくせに。 上手くいくのはきっと名前のせいだ。そうだ。 あいつの名前がさがるだったらよかった。 そしたらきっとどうにもならなかったに違いない。 くそう、のぼるのくせに。上っているのは僕だ。 だのに上手くいかない、ちくしょうちくしょう。 ああちくしょう。 カンカンカンと僕は上り続ける。 だいぶ日が傾いてきても僕は上り続けた。 だって階段があるから。 そしたら上るしかないだろう? なぁ、そうだろう。 いいや、そうではないのかも知れない。 そうだ、階段は下りる為にだってある。 上にいる人間が下におりる為にも使われる。 じゃあ何で僕は上るんだ? いやちょっと待ってくれ。 僕は上りたいのか? 本当に上りたかったのか? そもそも僕は上っているのか? 実は回っているだけではないのか。 アホみたいにただぐるぐると回っているだけで、 実はこの場からちっとも進んではいないのではないのか。 考えながらも足だけは前に伸びる。 下は見ない。 怖いから。 進んでいなかったらどうしようと怖いから。 カンカンと音を立てて、ただ上に突き進む。 上るか下りるかしかないのか。 他に選択肢はなかったのか。 だって回りは柵でさえぎられているじゃないか。 じゃあ仕方ないじゃないか。 それしかないんだ。 それしかないのか。 本当に? 本当に。 柵を壊すことはできないのか? そこで僕は初めて足を止めた。 柵に目をやる。 あぁなんだ。 始めから柵なんてなかったんじゃないか。 僕が気付いていなかっただけだった。 柵があるなどと、思い込んでいただけだった。 じゃあ飛び降りることだってできる。 あぁそうだ、僕には何だってできるじゃないか。 今から階段を下りることだってできる。 けれど、そうしてどうする? どうなる? せっかく上ったのに下りてしまうのか? それでいいのか? どうすべきなのか? どうしたい? どうすべきだ? 僕はどうするべきなんだ? 選択肢の前で僕はただ足を止めた。 考えてから行動しろ、と両親はよく言っていた。 あぁそうだよなぁ、馬鹿げているよなぁ、 階段があるから上ったなんて、考えなしにも程があるよなぁ、 だってこんな長いとは思わなかったんだよ、 どこまで続いているのかただ興味があっただけなんだよ、 気付いたらここまで来てしまったんだ、 どうにもなりはしないじゃないか。 結局僕は上ることにした。 それしか僕には選べなかった。 何日が経ったろうか。 それとも何月だろうか。 よくわからないけど僕はとにかく上り続けて、 ヒゲとかぼっさぼさになってて、足はガクガクだったけど、 それでも上るしかないから上り続けた。 下を見る気はしなかった、きっと落ちてしまうから。 「あれ?」 次に踏み出すべき板がない。 そこで僕は気がついた。 てっぺんだ。 頂上だった。 階段は終わっていた。 上りきってしまったのだった。 そりゃそうだ。 階段だってちゃんと作られたものだ。 終わらないわけがない。 見晴らしは最高というかなんというか、もうワケがわからない。 地平線を通り越して星が見える気がする。 あぁなんだ。僕は上りきったのか。 なんだか力が抜けてしまい、その場に僕は腰を下ろした。 なんだか笑えてきてしまい、げらげらと1人で笑う。 げらげら。げらげらげら。げらげらげら「チン」げらげら。 ん? 「チン」ってなんだ。僕はレンジなんて持ってきていない。 そんなのあったら重くてたまらないだろう。 辞書ほどではないにしても。いや辞書も相当重い。 なんで僕はこんなの持ってんだ。 音がした方を振り向くと、扉があった。 横にスライドするタイプの扉のようで、それががーっと開く。 中から人が出てきた。わらわらと。 「終点です」エレベーターガールがそんなことを言った。 「ははっ」 なんだよエレベーターって。 ちくしょうだな。 僕は出てきた連中に唾を吐きかけてやると、思いっきり階段から飛び降りた。 - 了 あとがき - ぐるぐると上り続ける。 だらだらと書きたいなーと思ったのでだらだらと。 08/01/24 ∠short ∠index |