スティグマ -


遠く蝉の声がする。

カーテン越しであるにも関わらず、

太陽が自らの輝きを激しく自己主張している。

暑いね今日も。

私が呟く。

じゃあ部屋の中でくらい長袖やめたら。

彼が返す。

そして沈黙。

じっとりと汗が服に染み込んでいく。


「あ、蚊」


ぱん、と彼が私の首を叩いた。

掌をひっくり返すと、潰れた蚊と、

それが吸っていた赤い液体が弾けていた。


「私O型だからなぁ」


「それって関係あるの?」


あぁ、甘くて美味しいらしいよ、と私が呟くと、

へぇそうなんだ、初めて知った、彼も呟いた。


「飲んでみる?」


え、いいの。

彼がためらいなく頷いたので、

私は手近にあったカッターを手に取って、左手首にあて、走らせた。

間もなく、傷に赤が入り、ゆっくりと流れ出す。


「はいどうぞ」


袖をまくり、飲みやすいように彼の顔に近づける。

彼の舌がそっと私の手首に触れ、やがて唇が触れた。

ちゅるちゅる、音を立て、彼が私をすする。

蜜をすする虫のように。

母乳を求める赤子のように。

ちゅるちゅる、私をすする。

したたり落ちようとする汗も零さないようにと、彼は舌を這わせる。


「どう?」


「んー、鉄の味、かな」


そりゃそうだ。

私が笑う。

でも、と彼が続ける。


「美味しい」


それはよかったね、

まだ私の手首から口を離さない彼の頭を、右手でゆっくり撫でる。

多分これが、愛しいという感情なのだろう。


「また飲んでいい?」


彼がそう甘えるので、


「いつでもどうぞ」


私はそれから、自分の為にではなく、彼の為に傷を増やすことになった。




                   - 了


あとがき -

更にサークル内作品。
このテーマも、「甘いもの」。
少し変化球狙いました。
これもやっぱり好き。


07/08/26


∠short  ∠index