レファレンス・サービス -


「何をお探しですか?」

ふらっと立ち寄った図書館で、その司書はそう口にし、俺は目を丸くしていた。

「どうかなさいましたか?」

声ではっと我に返る。彼女のはずがない。他人の空似だ。

「すみません、考え事をしていて」

「そうですか。では、どのような本をお探しですか?」

司書が丁寧に言葉を重ねる。
そうだ、本を探していたんだった。
どんな本を? ……忘れてしまった。

「えーっと、お、面白い本を」

曖昧すぎるにも程がある。
司書は少しの間きょとんとした後、控えめにくすくすと笑った。
笑い方もよく似ている。
恥ずかしさをごまかそうと一緒に笑いながら、そんなことを考える。
では、こちらなどどうでしょう。
司書から薦められた本をそのまま受け取り、
適当な席に腰を落ち着ける。
変な本だった。表紙には何も書いていない。題も著者名も存在しない本。
しかし、今の自分にはちょうどいいかも知れない。
表紙をめくり、俺は物語を読み始めた。
よくある話だった。
少年と少女が出会い、恋に落ちる。時にすれ違いながらも惹かれ合い、
そして2人は結ばれる。
幸福な物語。
いや、幸福であろうとした話。
俺はこの物語をよく知っていた。読んだことなどない。
けれど知っている。そう、最後の結末まで。
どこまでもよくある陳腐な物語。
吐き気を感じながらも、俺は夢中になって読み進める。
ああ、けれどきっと結末は変わらない。
彼女は死ぬ。
何もできない俺が彼女を殺してしまう。
それでも俺は読む手を止められない。
どうしても知りたいことがあった。
どのくらい時間が過ぎただろう、俺はとうとう最後の章に手をかける。
めくった紙の裏は、白紙だった。
ぱらぱらとめくるも、残りも全て真っ白。
奥付も存在しない。
まるで書きかけの日記帳のような。


脱力して周りを見回す。
窓の外は既に真っ暗で、館にはあの司書しか見当たらない。
近付いてくる。
如何でしたか。彼女が問う。
面白かったです。俺が答える。
それはよかった。彼女が笑う。
彼女は最後、幸せだったのでしょうか。俺が問う。
沈黙。
やがて、彼女は答えた。

「幸せ過ぎて、書く言葉が見当たらなかったのではないでしょうか」

呆然とした。
まさか、そのような答が返ってくるとは思っていなかった。
真っ白な紙。
語る力も残っていなかったのだろう。
俺はそう感じたから。
黙ったままの俺を見つめながら、司書は言う。

「お探しの物は見つかりましたか?」

何を探していたのか。
物語はもう書き換えられないというのに。
それでも俺は、探していたのだ。
まだどこかに、彼女がいるのではないかと。
閉館の放送が館内に流れる中、1人、俺は泣いた。



                   - 了


あとがき -

またもやサークル内の。
しかもサークルに提出してない作品。
テーマが「SF」「中央図書館」「カタカナ禁止」だったのですが、
SFって何書けばいいの!?とパニック。
よくわからないまま書いたので、
「これはSFじゃないだろ」と思い、未提出。
カタカナ禁止ってのも、タイトルでめっちゃ破っちゃってますが。
まーいいじゃない?ってことで。

06/12/25


∠short  ∠index