3年目の正直〜あるカップルのバレンタイン事情〜 -


明日は年に一度のお祭り。2月と言えばコレ。
女の子なら参加しなくてどーすんの!ってくらいのイベントで、
男の子にとっても大事らしくて。
私ももちろん参加したいし、ていうか毎年参加してるんだけれど。
…どういうわけか、毎年上手くいかないのよね、コレが。
あげる相手は決まってる。一昨年からいつもあげてるから。
…ていうか、押し付けてるから。
何故だか私は、こーいうのは手作りじゃないとダメだ!って人で、
そのくせ料理はからっきし、なんていう状態で。
だから、毎年私は失敗作ばかり量産していて。
一昨年は、余熱を取らないまま冷凍庫に突っ込んでガチガチのチョコに。
去年は逆に、人肌でドロドロに溶けてしまうものに。
それで味がいいならいいんだけど、味もからっきしで。
砂糖入れ忘れたり、入れたつもりが塩だったり。
彩りを添えるつもりで入れたものが、七味だったり。
恐ろしくて自分では味見しないまま作るからさらに失敗作がかさむワケです。
けれど、彼は毎年そんな失敗作を笑顔で受け取ってくれるから。
それが嬉しくて、だからまた今年も手作り。
今年も、ていうか今年こそは、
ちゃんとしたチョコを作って見せようと意気込んでいたりするワケなのです。

…それを思い出したのが三日前って辺りでもうダメですかね。

「とりあえず、当日までにできればいいよね!」

今日できることは明日でもできるよきっと。私の座右の銘。
…ゴメンナサイ、予定先延ばしにしていつも失敗している人間です。
せめて今年くらいは前日中に作りましょう、作って見せましょう。
ていうか考えたら、前日が日曜日なのに作らないなんて、
そんなの勿体無いし。
…というのは友人の受け売りです。
言われるまで前日が日曜日だと知らなかったのが私。
えぇい、とりあえず今年こそはー!



明日は年に一度のお祭り。2月と言えばコレ。
女の子にとっては楽しいお祭り。
男にとっては…戦場?
そんな感じの日。バレンタイン。
もらえたものは勝ち組に、もらえなかったものは負け組に。
僕はそんなの気にしたことないけど、
さりげなく、彼女がいたりする。
そんなワケで勝ち組に分類されると言えばされるんだろうけど、
もらったものを見ると、果たして勝ち組と名乗っていいものなのか、
いつも唸ってしまう。
毎年毎年、彼女はそれはそれはもの凄い傑作をくれて、
試しに友人におすそ分けしたら、その場で「コレはチョコじゃねぇ」と吐き捨てた程だった。
けれどその、『一生懸命作ったんです!』って感じのチョコを見ると、
笑わずにはいられなくて。
それでいつも楽しみにしていたりする。
今年も頑張ってくれるんだろうか。
今年は一体どんな作品に仕上がってるんだろうか。
…あぁ、楽しみ。いろんな意味で。
というわけで、まだ前日だけれど彼女の家に足が向かってしまったり。



「おぉぉ…」

どうしたことか。今までになくまともな味のチョコができてるではないか。
凄い。これぞまさにチョコ!
塩辛くも、ひたすら苦くもなくチョコ。もちろんピリッと辛くもない。
私でもコレだけできるんじゃないかー!と思わず胸を張って威張りたくなった。
自他ともに認めるドジな私が、何のトラブルもなくここまで!
…こりゃ、明日雪でも降るんじゃないかしら。
思わず自分で不安になって、空を見上げる。
…うん、大丈夫。布団を干したくなるような晴天だわ。
とりあえず、後は型を取って、冷蔵庫に入れればほぼバッチリ…のハズ。
あぁそれにしても、コレを食べたら彼はどう思うだろうか?
ホントに私が作ったかどうか疑問に思うだろうなぁ。
それで、その日の天気を気にするに違いない。
晴れてたら夢だと思うかもしれない。
で、マンガのように自分の頬をつねってみせたりするのだきっと。
うーん、自分で言ってて悲しくなってきた…
でも、コレでようやくまともなものを贈ることができる。
あぁ、何か達成感があるなぁ…
何だか誇らしい気持ちになって、チョコを高々と掲げあげてみたり。
うーん、優勝カップに似ていなくもない?
そうだ、いっそカップ型のチョコにしてみて…

ぴんぽーん

思考が変な方向に飛びそうになったところで、突然の来客。
おぉ危ない危ない、危うく正気を失うところだった…
毎度毎度正気を失ってる間に失敗作ができあがってるのよね、
今回はそうはいかないように、と…

「はーい、どちらさまですかー?」

「僕だけどー」

「はいぃぃぃい!?」

思わず声が上ずる。
おぉぉ、この魅惑的なソプラノボイスは、声変わりがいまだに来ていない彼のもの!
そんな、まさかこのタイミングで!?
って、まだ完成してないのに!

「あけていいかなー?」

「え、わわ、ちょちょちょっとまって、くださいっ」

パタパタと小走りで玄関に迎えに行こうとして、途中でアホな事実に気付く。
何で私はチョコの容器を持ったまま玄関に向かおうとしてるんだ。
とりあえず、まだ完成してないのに彼に見せたくはない、
どうせならちゃんと完成したモノを見てもらいたいというかなんというか。
今年こそ上手くいきそうなのだ、どうせならちゃんと形になったところを見てもらいたい。
慌ててそのまま引き返そうとしたところで、

「いいよね、お邪魔しまーす」

ガチャリと開けられる扉。

「何で勝手に入ってきてるんですかー!」

あぁそうだった、彼は礼儀正しいクセに、こーゆーところ適当なんだった。

「え、ダメだった?」

「ちょっと待ってて、って言ったじゃないで、す、かっ!?」

振り向いて突っ込もうとしたトコロで、私の素晴らしき個性が発揮された。
足元に何の出っ張りもないのに転ぶ。
コレが私の特技というか、欠点と言うか、まぁつまりそーゆーことで。

「うきゃあああああ!」

見事に転んだワケです。アイススケーター顔負けの転び方。
点数は見事全員0.00。
手にはもちろんチョコの入った容器。
道理で今日は晴れてるワケだ、だっていつも通りですから。
なんて考えが頭に浮かんだ時には、チョコはソレはソレは見るも無残な姿に。

「あぁぁぁぁぁ…」

「あらー…」

呆気に取られる私と彼。
チョコはその多くが床に、ほんの少しが私の顔やら腕やら服やらにくっついて、
もはや調理不可能な状態になってしまっていた。

「こ、今年こそは上手くいきそーだったのにぃ…」

「ご、ご愁傷様…」

はぅぅ、とチョコの前に崩れ落ちる私。
何だか、情けなくて涙も出ない。
結局、今年が一番最悪だった。
何もできないまんま。形にすら残せない。
今年こそは、まともなのあげられると思ったのに…

「ごめんなさい…今年も、ダメでした…」

「あ、いや、こっちこそゴメン、いきなり入ってきちゃって…」

「いや、そもそも私が容器持ったまま玄関に行こうとしたのが悪いんデス…」

はぁ、と、自分の行動を改めて思い出して、改めて落ち込んだ。
調子に乗ると上手くいかないって、いっつも反省してるのに、なぁ…

「今年はあげることさえできなくて、ごめんなさい…」

うなだれる私に、彼は、んー、としばらく考えた後、

「いや、そんなことはないよ?」

「へ?」

「だって、ほら、まだあるじゃない?」

そう言って、私の手を取ったかと思うと、
彼はおもむろに、そこについたチョコを舐めて取った。

「はぅ!?」

思わず変な声をあげてしまった私に、彼は

「うん、美味しい」

そう言って、ニッコリと。
それはそれは、素敵な笑顔でおっしゃって。
ていうか、腕、舐められて。
そんなことされたの、初めてで。
…顔が、熱い。

「え、えと…」

「何?」

「お、美味し、かった…?」

「うん、とっても」

「私の、手、ごと、なんですけど…」

「…あ」

ようやくそこで、自分のしたことに気付いた彼は、
ぼんっ!と音が聞こえてきそうな程の勢いで顔を真っ赤に染め上げた。
…きっと、私も今、同じくらい真っ赤になっているに違いない。
あぁ、ダメだ。顔が上げられない。
体中の血液が頭に全部回っているのではないかと思うくらい、顔が熱い。
それなのに、思考がグルグルと回って、止まらない。
あぁぁ、はずか、恥ずかしい、ていうか、手、握った、ままで。
何言えばいいのかわかんないし、向こうも何も言ってこないし、
でも何も言葉、出せなくて、何言ったらいいかわかんなくて、
そういえば私、まだチョコまみれで、ていうか、何か言って欲しくて…
お互い沈黙したまま、一体どのくらい時が流れただろうか。
もしかしたらほんの数秒だったのかもしれないけど、
私は1時間くらい経過したように感じていた。
とにかく何か言わないと、って、口を開こうとした時、

「…君は何時見ても飽きないなぁ」

くすり、と笑って。彼がそう言った。
顔を上げて、彼の顔を見つめる。
まだ赤いその顔。けれど、その表情は、とても落ち着いたもので。
あぁ、そうだ。
私は、彼のこういうところが好きなんだ。
声同様、顔立ちも幼い彼。
けれど、その態度も、雰囲気も、どこか大人びていて、冷静で。
それなのに、たまに、すっごい可愛い反応して。
そういうところが、たまらなく好きで。

「…それは、こっちのセリフです」

「え?どゆこと?」

「何でも、ないです…」

「ふーん…?あぁそういえば、まだチョコついてるよ、顔に」

「あ、あわ、恥ずかしいです…」

「取ってあげる」

そう言って、彼は今度は、あろうことか、私の顔についてるチョコを取ろうと。
私の顔に手を伸ばしてきて。
思いっきり顔を近づけてきて。
え、それってちょっとちょっと、まさか腕と同じように!?
直接舐めて…って、えぇぇえ!?
まだ心の準備、がっ…!
慣れない不意打ちを続け様二度も食らった私にとって、
ソレはもう何ていうか、致命傷と言うか何と言うかで、
つまり、どうなったかと言うと。

思いっきり気絶した。



「あれ…」

彼女の顔についたチョコを手ですくい取り、舐めようとしたところで、
不意に彼女の体が、がくり、と崩れ、思いっきり後頭部を床に打ち付けた。
ごすん、とやたら鈍い音がしたけれど、彼女が痛がる様子はない。

「またかー…」

ふぅ、と僕は溜め息をついた。
緊張が高まると、気絶する。
彼女の二大特性の内の1つだ。
ちなみにもう1つは、足場に何の障害物がなくても転ぶと言うもの。
マンガの中の登場人物をそのまま持ってきたような人。
ホント、見ていて飽きない。
何時まで見ていても、きっと飽きることはない。
まるで、ピエロみたいな人。
間が抜けていて、ドジばっかりで、けれど、いつも一生懸命な人。
だから、僕は彼女から目が離せない。
ただ、僕も初心だけど、彼女はそれ以上で。
…それがたまに、すっごい、困る。

「2年以上も付き合ってて…」

いまだにこの程度で気絶するなんて。
手を繋ぐコトすら、僕達は長い長い時間を要した。
その先に進む為には、一体どれだけの時間が必要なのか。
…皆目、見当もつかない。
今回みたいなコトがあると、特にそれを痛感する。
ていうか、今って正に、世に言う据え膳ってヤツなんだろうけど。
…食べられないよ、実際。
今までが今までだけに。ここで食べるのは失礼って言うか。
まぁ、食べる気はさらさらなんだけど。
けれど、毎度お預けばっかりだと、辛いって言うか。
据え膳食わねば何とやらって言うけどさ。
何度食わずにガマンしたことやら。
でも。
ここまでガマンしたんだから、どうせなら最後までガマンしないとなーって。
ゆっくりゆっくり。一歩ずつ。
ここまで来たのだから。
辛抱強く行きましょう。
紳士気取るワケではないのだけれど。

「…まぁ、でも」

たまにはちょっとくらいいいよね、と。
そんなワケで、彼女が気絶してるのをいいことに、顔についたチョコを少し頂いちゃったけれど。
それはまぁ、お返しで頑張ればいいよね、ってコトで。






                    - 了


あとがき -

うぎゃー!ベタ甘!ヤバ!
というわけでこんにち(orばん)は。
久しぶりに挑戦してみたおもっくそベタ甘小説。
またもや友人からネタ提供を受けての作品となってしまいましたが(;´Д`)
最初に考えていた話から二転三転して今の形となりました。
どうなんだコレ…と思ったけど、まぁ久しぶりにしちゃいいかな…?ということで(ぇ
とりあえずバレンタインに間に合ってよかったわ〜。
つーわけで、楽しんでいただければ是幸い。



05/02/14


∠short  ∠index