|
死にたがりの男の話。 - 突然だが私は死にたいと思うのだが。
「あらホント、突然ね。どうしたの?」 いやもうなんていうか、自分が生きていても仕方ない人間のように思えて仕方なくてね。 いろいろと人生上手くいかないし、いい加減死にたくなってきたのだよ。 「まだ若いのに人生を語るの?」 若くても年老いていても、死にたくなったらその時が死期なのではないか、 と私は考えているよ。 「まぁ喋り方だけは年老いてるけどね」 それはクセと言うものだよ。いいではないか。 「そうね、まぁ私は慣れたけど」 長い付き合いだったしね。 で、その長い付き合いのキミに、私はどうしたらいいか決めて欲しいのだよ。 「このまま生きるか、それともホントに死ぬかを?」 そう。 「私にあなたの生死をどうこう言う筋合いはないと思うのだけれど」 そう言わずにだよ。キミに死ねと言われたら、私は踏ん切りがつく気がするんだ。 「じゃあ死ねば?」 ふむ、アッサリと言ったね。それはそれで寂しいものだ。 「だったら死ななきゃいいのに」 いやいや、一度言った手前、ソレは実行せねばなるまい? 「変なところでガンコね」 はは、それは昔からだったろう? 「そうね…昔からといえば、あなたはゲームは完全にクリアしないといけない主義だったわね?」 あぁ。何かやり残したものがあると終わるに終われない主義だね。 「そうね。でもだったら、あなたの人生もゲームだったとしたら?」 ふむ? 「このままエンディングを迎えるのもいいだろうけど、何かやり残しといたことはないの?」 言われてみれば確かに。私にはまだ少しやっておきたかったことがあるな。 「でしょう?」 うむ。ではその少々の雑務を終えてからエンディングと行こうかな… 考えてみれば気楽なものだな、終わりが見えたのだから、 後はソレに向かって一直線。これほど楽な道はない。 「そうね、あなたはもうラスボスを倒したも同然ね」 うむ。ではまず、そうだそうだ。読みかけの本がたくさんあったのだ。 あれらの結末を見届けねば死ぬに死ねないな。 「あなたはよく本を溜めていたものね。じゃあまずそれをやったら?」 うむ、そうすることにするよ。いやいやどうもありがとう。 「いえいえどういたしまして」 では本を読み終えたらまた連絡するよ。 「えぇ、それじゃまた」 やぁ久しぶり。 「えぇ久しぶり。随分引きこもっていたわね」 いや、随分と読みかけの本が溜まっていてね。 それらを消化するとなると大変な労働だったわけだ。 「溜め込みすぎよ。あなたは夏休みの宿題もよく溜め込んでいたわね」 懐かしい思い出だなぁ。いやいや、しかしでも私は必ず提出していたよ? 「私の手も必ず借りてたわね」 いやいや、申し訳なかったねその辺は。 「いいえ、別に構わないわ。これから死ぬ人に謝られてもね」 おぉ、そうだったそうだった。いや、これでもうやり残したことはないかな。 「そういえばあなた、一応卒業を目的にしていなかった? だいぶ休んでいたようだけど、出席日数は大丈夫?」 そういえば。結構な日数いなかったから、ヤバイかもしれないな。 「でしょう?それに、あなたの楽しみにしていた修学旅行にもまだ行ってないわよ」 そうだそうだ。私は京都が大好きでね。中学の時にも一度行ったが、 あそこはいい場所だ。また行っておきたかったのだよ。 「そうね、あなたはほっとくといつまでも寺の中でぼーっとしてたわね。 班長として大変だったわ」 いやいや、その節も苦労かけたね…申し訳ない。 「いいえ、慣れてるから」 そうかい。そう言われるのもなんだかなぁだなぁ。 「まぁとにかく、旅行も卒業もまだなのに、死ぬわけ?」 そうだそうだ。まだ私には目的が残っていたのだな。 それをやり残したまま死ぬわけにはいかないな。 「そうね。だったらとりあえず勉強したら?テスト近いわよ」 なんと。それがあったか。しまった死にたい。 「卒業するんでしょ?」 うぅむ…ならばいつものように数学の方、ご教授願えないかな。 「えぇ、別にいいわよ。代わりにあなたも古文と歴史教えてね」 うむ、その辺なら任せたまえ。抜かりはないよ。 「じゃあとりあえず、明日から学校に行きましょうか?」 うむ。遅れていた分のノートもよかったら見せてもらえないか。 「有料でいいならね」 相変わらずだね…まぁ常連ということで安く頼むよ。 ふぅ、ようやく卒業か。 「長かったわね」 うむ、確かに。しかし旅行は楽しかった。 「えぇそうね。あなたったら清水の舞台からホントに飛び降りるんだもん」 いやアレはありがちなハプニングというやつだろう。お約束だよ。 「下の木に引っかかってなければお約束じゃすまなかったけどね」 もちろん狙ったさ。皆の思い出を灰色にするわけにはいくまい? ちょっとした色を添えたまでさ。 「そこまでしなくても、もっと普通に楽しめばいいのよ」 そういうものかね?ふむ、ならば皆には申し訳ないことをした。 「いいのよ、皆ももう諦めてるわ」 それはそれで切ないな…あぁ、切ないといえば、皆泣いているね。 「卒業だものね」 キミは泣かないのかい? 「別に。私、感受性低いみたいだから」 それは勿体無いね。泣ける時に泣くということは大切なことだよ? 「そうかしら?」 うむ。そういうものさ。 あぁしかし、これでようやく私もやるべきことを終えたのだな。 うむ、安心してこれで死ねるよ。 「そうね、祝福するわ」 ありがとう。いやぁ、キミには随分迷惑をかけたね。 「気にしてないわ。いつものことよ」 サッパリしているね。それが実にキミらしくてよい。 「いいことなのかしら?」 少なくとも私はいいと思ってるよ。 「それはありがとう」 うむ。さて、ではそろそろ死に方でも決めるとしようかな。 「私的には首吊りをオススメするわ」 いや、アレは後の処理が大変らしいからな。処理する人に申し訳ない。 「死ぬ人がそんなのを気にするものなのかしら」 いいではないか。最後の気遣いと言うやつだ。 「そう。なら飛び降りは?」 いや、アレも死体の処理が大変だろう。 何より、これから合格発表を迎える皆に対して、景気が悪い。 何せ落ちるのだからな。 「それもそうね。そういえばあなた、進路は大学?」 あぁ、そういえば私も受験していたな。 「だったら合格発表見に行かないとダメじゃないの?」 そういえば。それを見届けずに死ぬというのも癪だな。 私の努力の程がどんなものだったか、確認せねば。 「私も一緒に行かないとね」 ふむ、わざわざ私の結果を見届けてくれるというのかね? キミは優しいな。 「何言ってるの。私も同じ大学を受けたのよ」 あぁ、そういえばそうだったね。うっかり忘れていたよ。 「酷いわね、誰が勉強を教えたと思ってるの」 すまない、恩を仇で返してしまったな。 「いいえ、別にいいわ。それよりも、大学受かってるといいわね」 うむ。必死で勉強したからね。 「そうね。じゃあとりあえず明日は駅に待ち合わせということで」 うむ。あぁ、紙吹雪は用意しといた方がいいかな? 「お好きに」 ならばキミの分も作っておくとするよ。一緒にばら撒こうじゃないか。 「遠慮しとくわ」 そうかい?それは残念だ。では、また明日。 「えぇ、また明日」 いやぁ、見事2人とも受かってたね。めでたいことだ。 「えぇ、そうね」 まさか受かるとは思っていなかったよ。何せ数学が受験科目にあったからね。 「それはどこの学校にもあると思うわ」 そうかね?まぁしかし、結果を見届けたのだからこれで死ねるというものだ。 「そうね。でも、あなたこの大学に凄く興味を示していなかった?」 あぁ、そういえばそうだった。 一体どのような教育をやっているのか、実に興味があったのだよ私は。 「じゃあ死ぬ前に一度大学に入って様子を見ては?」 うむ、確かにそれを見ずして死ぬのも勿体無いな。 しばしキャンパスライフというものに浸ってみるとするかな。 「そうね、死ぬのはその後でも遅くないわ」 そうだね。うむ、では合格祝いに居酒屋にでもいこうじゃないか。 一杯飲み交わそう。 「遠慮しとくわ」 ふむ、勿体無い。せっかくなのだ、祝杯を交わそうではないか。 「私まだ未成年だし」 あぁ、そういえば私も未成年だった。 「普通忘れないわ」 いやすまないな、どうも死のうとしていてその辺があやふやだったらしい。 「そういうもの?単に性格でしょ?」 言われてみればそうとも言えるな。 うーむ、では祝杯をあげるのはあと2年先か。 「2年も経ったら何を祝せばいいのかわからないと思うけど」 いいではないか、そこはそれ、ノリというものだよ。 「そうかしら。じゃああと2年は生きないとね」 あぁそうか。それもそうだな、キミと酒を飲み交わす前に死んではいけないな。 「えぇそうね。じゃあとりあえずは入るサークルでも決めておいたら?」 あぁ、それなら私は不思議研究会というものに入ろうと思うのだが。 キミも一緒にどうだろう? 「却下させてもらうわ」 そうか、それはとても残念だ。 いや、ようやく2人とも二十歳を迎えたね。 「えぇ、あっという間だった気がするわね」 まぁそれはほんの数行で時間が飛ぶわけだしね。 「数行?」 いやなに。こっちの話だ。 「そう。とりあえず、乾杯しましょ」 うむ、乾杯。…いや、アルコールを摂取するのは初めてだ。なかなかいいね。 「そうなの?普通若者はもうお酒くらい飲んでいるものだと思うけど」 そうなのかね。あぁしかし、これで一通りの目標は達成できたわけだ。 「そうね、おめでとう」 ありがとう。うむ、このまま酔い潰れて急性アルコール中毒で死ぬのもよいかもしれん。 「それは私が処理するのが大変だからやめてね」 そう言われると弱いな…仕方ない、その死因は諦めるとしよう。 「それがいいわ。ところであなた、もう就職とか考えているの?」 いやいや。もう死ぬつもりだったからこれっぽっちもだよ。 「そうなの?でも一度くらい、社会の厳しさを味わっておくのもいいと思うわ」 言われてみれば。ふむ、私を育ててくれた両親が一体どんな苦労をしていたのか。 考えてみれば興味があるね。 「でしょう?それにあなた、前々から教師やりたいって言ってたじゃない」 あぁ、確かに。だからこの大学に進んだのだしな。 「だったらとりあえずそっちの道に進んでみたら?」 うむ、そうしてみようかなぁ…あぁしかし、頭がくらくらしてきたよ。 「案外酔うの早いのね」 どうやらそうらしい…そういえば、やってみたいことリストの中に、 酔い潰れて吐瀉物を撒き散らすというものがあったのだが。 「却下。やったら私があなたを殺すわ」 うぅむ、それはキミが殺人罪で苦労するだろうからやめとくとするよ。 「そうしてちょうだい」 やぁ、久しぶりだね。元気していたかな? 「えぇ。あなたは相変わらずみたいね」 うむ、教師というものもやってみると楽しくてね。 今受け持っているクラスのコ達がまた可愛くてね。 「まるで自分の子どもを自慢しているようね」 感覚としては近いかも知れないな。とりあえず、 今のコ達が卒業するまでは、死ぬに死ねないと思っているよ。 「それはいいことね。で、今日わざわざ呼び出した理由は何?」 うむ。実はまだやり残していたことを思い出してね。 コレを忘れてはやはり死ぬに死ねないと。そう思ったわけだ。 「あなたがそこまで言うのも珍しいわね。で、一体何?」 うむ。実は結婚したいのだよ。 「誰と?」 キミと。 「アッサリとしたプロポーズね」 受け取ってもらえないかな? 「いいわよ」 キミの方こそアッサリしているよ。 「知ってるでしょ?」 あぁ、昔からの付き合いだからな。 「何だかそのセリフ、今聞くとやたらと老けたなって思うわ」 そうかい?キミはまだまだ若いよ。 「ありがとう。お世辞だとしても嬉しいわ」 お世辞のつもりはまるでないよ。 あー、しかし緊張したな。 「あなたでも緊張することなんてあるの?」 当たり前じゃないか。私だって人間だよ? 「そういえばそうだったわね」 そこのところ忘れないでもらいたいね。 いやホント緊張したよ。緊張で死ぬかと思った。 「むしろ緊張を死因として死んでみて欲しいわね」 うぅむ、どうだろう?できるかな。 まぁ私は不可能を可能とする人間だからね。 「初耳だわ」 うむ、自分で言っているだけだからね。 「そんなことだと思ったわ」 はは。いやしかし、ほっとしたな。 ほとんどのことはやり遂げたし、これでいつでも死ねるなぁ。 「あら、私を早速未亡人にするつもり?」 いやいや、そんなつもりは。 「だったら長生きしてね。私の夢は、夫と孫の顔を見ることだから」 それはまた、随分と変わった夢だね。 「あなたに言われたくはないわ」 それもそうだな。はは。 あぁ、なんだかんだで随分と長生きしたなぁ。 「そうね」 孫どころかひ孫の顔まで拝めたしなぁ。 「私も予想外だったわ」 あぁ、しかし私達は最後までこんな調子だったな。 「私達らしくていいんじゃない?」 それもそうだな。うむ。 しかし、10代の頃には死ぬつもりだったのにな。 人生どうなるかわからないものだ。 「そうね、だからこそ面白いんじゃない?」 そうかもしれないね。 そういえば最後にやり残していたことがあと1つあったのだよ。 「何?」 いやだね。私は最後は、大好きなキミと一緒に終わりたいと思っていたのだよ。 「心中みたいね」 はは、この歳じゃそうでもないだろう? 「それもそうね」 何よりロマンティックでいいじゃないか。 「あなたの口からロマンティックという言葉を聞けるとは思わなかったわ」 おぉ、最後の最後で聞けてよかったじゃないか。得したね? 「どうかしら」 相変わらず変わらないなぁキミは。 「あなたもね」 うむ、昔からだ。 …あぁ、どうやら私はもう限界らしい。 「私もそうみたい」 そうか。いや寿命がちょうど一緒でよかったよ。 「そうね。それじゃ、おやすみなさい」 うむ、おやすみ。 - 了 あとがき - 5万ヒットおめでとう自分。 というわけで即興で書き上げてみたわけわかんない話。 …なんでしょこれ(聞くな まぁね、久しぶりの更新ってことでね。いいじゃない? 連載作品の方は…停滞気味なんですけど… ま、まぁ、とりあえずなんだ、5万ヒットおめでとう自分!いえー ∠short ∠index |