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たとえばこんな幼馴染 - 幼い頃の夢を見た。
まだ、世の中の仕組みを何も知らなかった頃。 『おおきくなったら、けっこんするの?』 無邪気に尋ねる俺に、 『うん!』 と、これまた無邪気に答えた君。 あの日の約束はまだ有効なのだろうかと、寝ぼけた頭でぼんやり考える。 空が青いな、などと、まだ目覚めきっていない頭で考える。 意味のない思考。しかし今は、意味のある何かを考えることができない。 一体何が意味のあることなのか、それは判断できやしないけど。 とりあえず、日々のモヤモヤだとかなんだとか、そんなことをひたすらに考える。 俺にとって、朝の通学路とは、そんなもんだ。 要するに、低血圧で寝起きが悪いってことなんですけど。 ちなみに、この状態だと、学校の友人は誰も近寄って来ない。 本人はいたって温厚でいるつもりなのだが、どうやら周りはそうは思わないらしい。 「目が合ったら殺されると思った」「寝てる時のお前の背後には立ちたくない」etc,etc... 俺はどこぞの殺し屋か、とツッコんだが、誰も笑わなかったのが印象に残っている。 そんなに悪いのだろうか、と思いつつ、直す気はさらさらない。 ていうか直らない。コレはもう仕方がないことなのだ。 恨むならその様な体に産んでしまった我が両親を恨んでいただきたい。 さすがに社会に出た時には困るものかもしれないが、まぁ今は別にいいだろう。 たかだが殺し屋と間違えられるくらいだ…いや、やっぱり困るだろうか。 まぁ、若干1名、そんなことはまるで気にしないヤツもいるのだが。 「おっはよー!」 ウワサをすれば何とやら。 耳を突き抜け脳を突き破るような甲高い声とともに、後頭部を鞄で殴られる。 毎朝恒例の儀式。お陰様で俺の後頭部の厚みはきっと当社比1.2倍増し。 「…ハヨ」 寝起きということで、自然と不機嫌そうな、低音の返事になってしまった。 が、ソイツは全く気にも留めやしない。 そりゃそうだ、何たってコイツとはもう幼稚園の頃からの付き合い。 俺の寝起きが悪いことくらい承知している。 ていうか、多分どうでもいいと思っている。つまり、そーいうヤツ。 「ん〜、段々と寒くなってきたね!」 「その割にはお前元気だよな…」 「うーん、でも、元気が一番だと思わない?」 「さぁ…俺は別にどうでも…」 「もー、つまんないなー。そんなんだから殺し屋とか言われるんだよ?」 「いや別にどうでもいいし」 「んもー、わかってないなー。キミはいいかも知れないけど、 こっちは殺し屋のパートナーとか言われるんだよ?」 「言わせとけばいいだろ」 「ダメ!経歴に傷がっ!」 「…何だよ経歴って」 「んー、気にしない気にしない」 いや、気になるがな。 しかしヤツは答えず、隣に立って歩き始める。 そして始まる、いつもの風景。他愛のない会話。 「ていうか、いい加減朝弱いの直したら?」 「直そうと思って直せるもんじゃない」 「それは、今までキミが直そうと思わなかったからじゃないの?」 「かもしれん」 「じゃあ試してみたらいいじゃない」 「やる気出ない」 「まぁ、そう言うとは思ったけどさ」 そう言って、幼馴染は、何が楽しいんだかわからないけど、楽しげに笑った。 見ているだけで、こっちまで楽しくなる、不思議な笑顔。 その笑顔に惹かれて、コイツの周りにはいつも、いつの間にか自然と人が集まっている。 その威力たるや、泣いてる子どもをたちまち笑顔にしてみせ、 別れ話をしているカップルを和解させ、銀行強盗をも改心させてしまった伝説を持つ。 コイツがいれば、戦争さえも止められるんじゃないかと言う噂がまことしやかに囁かれている程だ。 が、肝心の本人は、その力を自覚している様子はないのだが。 楽しいのが一番。コイツが笑う理由は、ただそれだけに尽きると思う。 つまりは、無邪気。もしくは能天気。ていうか天然。 だからこそ、皆は慕うんだろうけど。 そんなヤツと幼馴染。それは、よくわかんないけど、何故だか少し優越感に浸れたりして。 そう、そんなヤツと、昔。 世の中の仕組みを何も知らなかったとは言え。 俺は、迂闊にもあんな約束を。 「なぁ」 「ん?」 「今朝、夢見たんだけどさ」 「へぇ、どんな?」 「ガキの頃、した約束」 「ふーん?何かしたっけ?」 何も知らない、と言った、無邪気な顔をして尋ねてくる。 …憶えてるわけ、ないか。 ていうか、何で俺は、こんな話をしようとしてるんだか。 「……いや、何でもない」 「あー!ナニソレ!」 「忘れた」 「ずるーい!いっつもそーやってはぐらかすんだから」 「悪いな」 「ヨシ、コンビニの肉まんで許したげよう」 「ゴメンこうむる」 「じゃあ特選」 「…値上げしてんじゃねぇか」 「いいじゃんそのくらい」 そう言って、ヤツはハハハ、と楽しそうに笑った。もう既に俺の夢の話は忘れているのだろうか。 全く、食い意地が張ってるっつーか。深く悩まないっつーか。 …ホント、俺、何考えてるんだか。 憶えてるわけないだろ。それに、憶えていたからって、んなこた何の意味もない。 ていうか、憶えてもらっていたら、逆に困ることになる。 「そういえば」 唐突に隣から声がかかった。 俺は内心ビビりつつ、隣のやや斜め下にある頭を見下ろした。 本人はコンプレックスらしいが、その身長のお陰で、クラスではマスコット的存在だったり。 「何」 「もうすぐ14日だねぇ」 にひひ、と、イタズラっぽくマスコットが笑ってみせる。 あぁもう、そういうトコロが嗜虐心を誘うんだきっと。 「…だから?」 「いやぁ、2月の14日といえば、決まってるでしょ?」 あぁ、なるほど。 コイツの好きそうな話だ。 俺をからかう、という点において。 「…そーゆーこと、ホント敏感な、お前」 「キミが鈍いだけだよ。で?今年はくれる相手はいないのかな?」 「今年も、な」 あえて強調してみせると、ヤツは、さも今気付いたように「あ、ゴメンゴメン」なんて笑ってみせる。 …コンニャロウ。 「あ、痛」 「ん、何が?」 「イヤ、頭、頭」 「頭が何」 「こう、ギリギリ、って、締まって、いていていていて」 「そりゃ大変だなぁ」 「…ゴメン謝るからアイアンクローはやめて下さい」 「ヨロシイ」 そこでようやく、俺は右手を頭から放してやった。 途端、マスコットはまさに小動物のように素早く俺から身を離す。 頭が小さいもんで、握りやすくてよい。 本人にしてみれば迷惑極まりない話だろうが。 「もー、容赦しないんだから…」 「一応手加減してるつもりなんだけどな」 「ウソツキ」 「バレたか」 「うわっ、サイテー!」 はは、と笑って返してみせる。 他愛のないやり取り。 だけどそれが、妙にくすぐったくて。やけに楽しくて。 気持ちが、落ち着く。 その時、また、今朝の夢を思い出した。 『おおきくなったら、けっこんするの?』 ホントに、何考えてたんだかな。 何の考えもなかった。何も知らなかった。 ただ、親から、結婚というものは、一番好きな人とするものだと知らされていたから。 ただ、それだけだったんだろう。 一番好きな人と。 昔の俺は、ただそれだけ思っていたに違いない。 子どもってのは、純粋だなぁ、なんて自分のコトながらにそう思う。 だけど、なぁ、ガキの頃の俺。 きっと、その未来だけはないと思うんだ。 大人になりゃわかると思うけど、世の中いろいろとわけわかんないことばっかりでさ。 ゴチャゴチャとした感情とか面倒な決まり事とか、ホントいろいろあって。 昔は何も意識せずに済んでいたものも、中学くらいからいろいろと気にしないといけなくなって。 それに、何よりも、だ。 ふぅ、と溜息をつきつつ、話を戻す。 「別に俺はいーんだよ。元から期待しちゃない」 「ま、男子校じゃ仕方ないよねぇ」 「元からモテないしな…って、お前も同じ立場じゃねぇか」 そう、何よりも。 コイツも、男なんだよ。 そりゃムリですよ、ガキの頃の俺。 「ハハハ、別にボクはいーの。中学の頃にもらったことあるし」 「…何、もっかいアイアン食らいたい?」 「やだなー、もらったって言っても義理だよ義理。そんなに嫉妬しなくても」 そう言いつつ、得意そうに笑ってみせるコヤツが小憎たらしいやら何やら。 あぁホントに、何で俺はこんなヤツとの約束をいつまでもズルズルと引きずってんだ。 そりゃ確かに、昔から小さくて肌は白くて髪の毛サラサラで笑うと可愛くて女の子みたいだったけど? だからって、なぁ、ホントに。 何考えてんの、今の俺。 「ま、お互い寂しい身ってコトでさ」 あはは、と、また幼馴染は楽しそうに笑った。 「寂しいなら、他校にでも作ればいいだろ彼女くらい」 お前なら楽勝だしなとは口に出さない。何かムカツクから。 …何でムカついてんだか。 「んー、でも別に彼女欲しくないし。1人でも結構平気だしね〜」 「…さよですか」 そう、俺は知っている。コイツが中学の頃、誰とも付き合わなかったことを。 何人もの女子から告白されているくせに、だ。 きっと、チョコだって義理だけじゃあるまい。本命ももらったに違いないのだ。 なのに、コイツはその全てをフッて、なおかつこの余裕。 理由は知らんが、男としてムカつく。 ムカつく、のだが。 一方でホッとしている自分がいるのは何故だ。 「あ、そうそう」 ふと思い出したように、彼が呟いた。 「何」 「さっき、約束がどうのって話、ちょっと出たじゃない?」 「あぁ」 忘れてなかったのか。ちょっと意外だ。 「アレでボクも思い出したんだけどさー」 「何を」 「カナダとかアメリカとか、あっちの方だと同性でもオッケーらしいんだよね」 ……はい? 「…何が?」 「イヤイヤ何、こっちの話なんですけどね?」 そう言って、フフ、と彼は楽しそうに笑った。 …なんだって? まだゆっくりとしていた頭の回転が、急停止した。 再起動までの所要時間、5秒。 その後フルスロットルで回り出す思考。 もしもメリーゴーランドがこのスピードで回転したら、 中の人は皆バターになっちゃうよ、というくらいの速度だ。 血液が脳に急速に充填されていくが、流れすぎて上手く思考は回らない。 えっと、ちょっと待て?どういう意味だそりゃ? 同性でもオッケーって、何が何だ何の話だ? 約束、って、俺が見た夢のヤツと同じのか? イヤそれよりも、何で俺はこんなに動揺してやがる? 待て待て、確かにコイツは腕も細いし肌も白いし髪サラサラだし料理なんか得意だし 女装したらそんじょそこらの女よりもよっぽどキレイなんだけどあぁ違う何言ってんだ俺は。 ていうか、相手は男だろ? そうだよ、男なんだよ。俺と同じ、男子校に通っている、正真正銘の男で。 だから向こうが俺にそんな感情抱くわけもないし、もちろん俺だってそんな感情ないのだ。 そう、そんなもんはサッパリない。あるわけない。 だったら何で、俺の心臓はこんなにも五月蝿く鳴ってやがる? あぁもう、ワケわからん。 それもこれも、全部あの夢が悪いんだ。そうだ、あんな夢なんか見てしまうから。 それに、アイツにしてみりゃ全部冗談かも知れないじゃないか。 そうだよ、いつもアイツ冗談ばっか言ってるし。 あぁそうだ、冗談に決まってる。アイツの言葉も、この俺の動揺も。 「…どしたの?」 「うわぁ!?」 突然目の前にアイツの顔が現れたもんだから思わず後ろに仰け反ってしまった。 イヤ、ホントに。ただ驚いただけで。他に何かあるわけなくて。 「顔、赤いよ?」 「え、嘘」 「ウソ」 慌てて顔に手を当てる俺を見て、くっくっく、と楽しそうに腹をかかえ笑う幼馴染。 …ハメやがったな。 「イヤゴメンゴメン。普段能面みたいな表情が面白いくらい変わるからさ、楽しくて」 「テメ…」 「ホント、飽きないよね。うん、やっぱりキミと一緒にいるのは楽しいよ」 「さよで…」 返す言葉も見つからない。くそう、1人で俺は何やってんだ。 バカみたいじゃないか。これじゃまるで道化だ。 手玉に取られて、いいように弄ばれて。 全く、情けなくて、涙も出ない。 何で、朝っぱらからこんなにもどっと疲れてんだ。 そんな俺を見て、彼はふと、優しく微笑み、 「ま、これからも、末永くヨロシク」 「あぁ…そう…」 「今のはプロポーズのつもりなんだけど?」 「……ぇ?」 2度目の不意打ち。しかも今度は直球ど真ん中。150キロストレート。 バッター、完全に見送り三振。 ちょっと待ってくれ。 えっと、つまり、なんだ、その。 要するに、今の言葉は。 ……どうすればいいんだ、この場合。 反応できずにいる俺に対して、彼は追い討ちのように、 「今の返事は、つまり受理されたってコトでいいのカナ?」 フフ、と楽しげに、小悪魔のように微笑みながら。 「イヤ、ちょっ」 そこで何かを言いかけたのだが、それを遮るように始業のチャイムが鳴り響いた。 いつの間にか学校近くまで来ていたらしい。全然気付かなかった。 「おっと。ホラホラ、走らないと遅れちゃうよ?」 言うやいなや、駆け出していく小さい背中。 「ちょ、待て!」 慌てて追いかけ始める、情けない俺。 あぁもうチクショウ、何なんだよもう。 せめて返事くらいまともにさせろよ。 ていうか冗談なのか本気なのか、ハッキリしてくれ。 でなきゃ……でなきゃ、何だ、俺? 答えを出そうとするも、目の前で閉まっていく校門がそれを阻んだ。 とりあえず、あそこをくぐってから考えよう。そうしよう。 何もかもワケわかんなくなっちゃってて、どうしたらいいかわかんないけど。 あぁでも1つだけ、確かなことは。 アイツの、本気だか冗談だかわからない言葉に、 何故か酷く心臓が高鳴っている自分がいる、ということだけだ。 - 了 あとがき 注意:ネタバレ含む!本編の後にどうぞ。 というわけで、どうもこんにち&こんばんは。アキさんです。 えーっと…この作品は、Sweet Areaのハナさんに贈呈したものです。 で、まぁ、こんな話になったわけです、が。 …いやね?決して、新ジャンルに挑戦!とか、そんなんじゃないんです、ホントホント。 ただ、『あぁこんな展開はどーだろーなぁ』と思っただけでして。 決して、決してBLに目覚めたワケじゃないんですよ!?…多分?(ヲイ まぁそんなわけで、楽しんでいただけたなら幸い、ってことで… でわでわ。 04/01/30 ∠short ∠index |