学園SFラブコメファンタジーモノ -



「それでは始めて下さい」

先生の声とともに教室中をシャーペンを動かす音が支配した。
机に向かう者はそれぞれ真剣な表情で目の前のプリントに取り組んでいる。
口を開く者は誰一人としていない。いるわけがない。
口なんぞ開こうものなら、どこからともなくゴリラのような体育教師(34歳、未婚)が現れ、
音速の速さでどこかに連れ去られてしまうからだ。
よって、生徒は皆、各自の力でプリントを解かなくてはならない。

そんな地獄のような行事、人はそれをテストと呼ぶ。

もちろんテストである以上、カンニングなどもっての他。
万が一見つかろうものなら、どこからともなく現れたゴリラのような体育教師(彼女いない歴34年)
に連れ去られ、とても口に出して言えない様な目に遭うらしい。
もちろん誰も自分の身は可愛いから、真面目に勉強してくるワケだが、
中にはとてもいっぱいいっぱいな顔で試験に向かっている者もいた。
こんな表情をお目にかかれる機会は滅多にない。
具体的に言えば、トイレをギリギリまでガマンしている人に見られそうな顔だ。結構見られそうですね。
それはともかく、そのいっぱいいっぱいな表情の中の1人は、心の中で一生懸命考え込んでいた。

(ヤバイ。さっっっっぱりわからん)

何でこんなにもわからないのだろうか。その少年、仲武は悩んでいた。
テスト前日に某大作RPGを数時間もやっていればそりゃ勉強も手付かずになるというものだが、
しかし彼は都合の悪い記憶は忘れてしまうので、原因は永遠に闇に葬られることとなった。
とりあえず、現状として一問も解けていない。最悪の状態だった。

(ていうか、こんなこと授業中にやったっけか…?)

彼が不思議に思うのも無理はない。何たってこの問題は授業中の応用の応用のそのまた応用くらいのレベルであり、
事前にしっかり準備をしていた者でさえ解答欄にところどころ穴が空いている状態なのである。
前日に某大作RPGで隠しボスと手に汗握る激闘を繰り広げていた彼には到底解けない問題なのであった。
唯一の救いは選択問題がいくつかあるということくらいだったが、どの選択肢も正解に見えてしまう有様である。
このままでは赤点確実。それだけはマズイ。もしも赤点なんぞ取ろうものなら、学校に両親召喚。
担任にあることないこと吹き込まれ、家に帰ってさらに説教をくらい、小遣いダウン。
おまけに何の脈絡もなく現れたゴリラのような体育教師(保険室の先生を狙っているとの噂)に連れ去られ、
心に一生治らないような傷を負わされてしまうに違いないのだ。
ちなみに以前赤点を取ったことのある鴨川という友人が体育教師の元から帰還した時は、
ショックのあまりしばらく口もきけない状態であったという。おそろしや、体育教師(出会い系の常連)。
現在の状態を一言で表すのならば、絶体絶命。まさにソレであった。

(こうなったら…)

残された手はただ一つ。

(ザ・カンニング!!)

それしかないと仲武は考えた。確かに見つかった時のリスクは大きい。
だがこのままでは最悪のエンディングを迎えることは火を見るより明らか。
ならば玉砕覚悟で点数を取りに行くべきである。
何気に既に机の中に教科書なんぞ仕込んである辺り、彼が最初っからこれしかやるつもりがなかったことが窺える。
さぁ、早く行動に移さなくては。見回り教官の方を注意深く見やり、いざ実行に移そうとした、その時だった。

カターン

教室にペンの落ちる音が響いた。落とした者が慌てて拾おうとする。
が、それをさえぎるように、突然教官が指をパチン、と鳴らした。
すると、まるで見計らっていたかのようなタイミングで、ガラッと前の扉が開いた。
そこにはゴリラのような体育教師(両刀使いとの噂もアリ)が仁王立ちしていた。
教室にいた皆は、心の中で同時にツっこんだ。


何でフンドシ姿やねん。


だが、当の体育教師はまるで気にした様子もなく、獲物を探すハンターの如くキョロキョロと教室の中を見回す。
間もなくペンを落とした者を見つけると、途端体育教師の目が妖しく光った。

「フォーーーーーーーーーーー!!」

奇声を発し、体育教師がペンを落とした者、猪木に勢いよく飛び掛る。
空を舞う体育教師。その姿は今夜の夢に出てきそうなインパクトがあった。
ちなみに、猪木だからといって別にアゴはとがっていない。

「う、うわぁ!?」

逃げようとするも、抵抗する間もなく猪木は捕まった。まるでライオンに捕まったシマウマ。
後はただ食われるだけである。合掌。
体育教師は肩に軽々と猪木を担ぎ上げると、奇声を発しながら意気揚々と教室を出て行った。

「たっ、助けてくれええぇぇぇぇ…」

ドップラー効果を残しつつ、猪木の最後の声はやがて聞こえなくなった。
後には、彼が体に隠していたと思われる白い小さな紙が宙を舞っていた。

(危なかった…)

仲武は脱力した。あそこまで完璧な準備をしていた猪木でさえ捕まってしまった。
きっと今頃彼はこれから先一生付きまとうようなトラウマを負わされているに違いない。
戻ってきた時、たとえアゴがとがっていようと何ら不思議はない。あぁもう何の不思議もないのである。
自分がもしここでバカ正直に教科書なんぞ見ていたなら、「パチン」「ガラッ」「フォーーーーーーーーー!!」
の三連コンボでお陀仏になっていたに違いない。そう考えるとゾッとする。
仲武は安堵の溜息をつきつつ、犠牲になった猪木に感謝し、その冥福を祈った。
いや、まだ生きてますから。
しかし、どうしたものか。フリダシに戻ってしまった。
いや、むしろカンニングすることさえ封じられてしまった今、事態は明らかに悪くなっている。
このまま適当に答えを書いて提出してしまおうか。イヤダメだ。それは間違いなく赤点直結コース。
ならばやはりカンニングか…?しかし頭の中にあのフンドシ姿が思い浮かんで手が止まる。
ちなみに赤フン。一体どこに行けば売っているものなのだろうか。ドン○ホーテだろうか。
いやそんなことはどうでもいいんだ。あぁどうしよう。
赤点か。赤フンか。赤点か赤フンか赤点か赤フン、赤点赤フン赤点赤フン赤赤赤赤…
いよいよ頭の中がレッドゾーンに突入し始めたその時、突如信じられないことが起こった。

『やぁ、お困りのようだね仲武クン』

「!?」

いきなり、自分の耳元で声がしたのだ。それも、随分と聞きなれた声が。
しかしそれはありえないことだった。
何故ならその声の持ち主は自分の席からは遠く離れた場所にいて、今のような声で話しかけることは不可能だし、
何よりも声を出した時点で「パチン」「ガラッ」「フォーー(略)」である。
だがその相手、安倍は、構うことなく話しかけてきた。

『だいぶ参っている様だね、ムリもない。だがこの声が先生に聞こえることはないから安心して欲しい。
今僕は、君の頭に直接話しかけているのさ』

フフフと得意げに笑う安倍。

『何だそりゃ?何をどうしたらそんなことが?』

返事ができることに驚きつつ、仲武が尋ねると、安倍はさらに不敵に笑った。

『フフ、こんなこともあろうかと昨晩の内に君の頭にちょっとした不思議機械を埋め込めさせてもらったのさ』

『何しとんのじゃーー!!』

『原理はよくわからんが、どうやらコレで頭の中で会話が可能になるらしい』

『原理のよくわからんものを人の頭に勝手に埋め込むなぁ!!』

『大丈夫!無味・無臭・無抵抗だって未来から来た青ダヌキが言っていた!』

無抵抗って何だ。

『あからさま怪しいだろうがぁ!』

『まぁ何かこう、SFっぽくていいかなぁと』

『よくねぇよ!』

仲武はキッパリと即答した。ちなみにSFの部分はココだけです。

『まぁいいじゃないか。それに、他の連中にもつけてあるし』

『よーう』

『やっほー』

『テンパってるかー?』

『フォーーーーーーーーーーー!!』

安倍の声を皮切りにいきなり騒がしくなった頭に、仲武は思わず耳を塞いだ。
若干1名ヤバイのがいたような気がしたが、無視することにした。

『まぁこれだけいればどうにかなるんじゃないかな、と』

『むぅ、確かに方法は非現実的だが願ってもいない状況…この際目を瞑ろう。さすが安倍』

いつの間に仕込んだんだとか、ていうかソレ不法侵入じゃないのかとか、
いろいろとツっこみたかったがその辺も全て目を瞑ることにした。
明日からは部屋にちゃんと鍵をかけたか確認することにして。

『うむ。ちなみに猪木にも仕込んであったのだが』

『フォーーーーーーーーーーー!!』

返事が聞こえた。

『…彼のことは心に刻んでおくとしよう』

哀れ、猪木。

『まぁそれはともかく、早いとこやっちまおうぜ。これだけいりゃ誰かしらわかるだろ』

『そうだな。それじゃ、問1、わかるヤツー?』

『…』 『…えっと』 『さぁ…?』 『鎌倉幕府、かな?』

今は数学です。

『…そうだ安倍!お前ならわかるだろう?クラス1の秀才だし!』

その意見に、フ、と不敵に笑い、自信たっぷりに口を開く(いや開いてないけど)安倍。

『残念ながら皆の頭に機械を埋め込むことに忙しくて何も用意していない』

『アホかぁ!!』

とことん誰も使えなかった。
ふぅと溜息をつき、仲武は気を取り直す。

『仕方ない…じゃあ選択問題やろう。皆、ここの答え何になった?』

『ア』 『イ』 『ウ』 『エ』 『フォーーーーーーーー!!』

『…もういい』

お約束だった。

『マズイ、マズイぞ…このままじゃ赤点で赤フンだ…』

溜息とともに仲武は頭を抱えた。頭の中では誰も話さない。
皆が思い沈黙に包まれていると、ある者が口を開いた。

『皆…こんな時に何だけど、いや、こんな時だからこそ聞いてもらいたいことがあるんだ』

その声は出席番号41番、米川だった。

『何だ米川、一体…?』

淡い期待を抱きつつ、返事をする仲武。

『実は、前から言おう言おうと思っていたんだが、勇気が出なくて…
でも、皆と頭が繋がっている今なら素直に話せる気がするんだ…』

『いや、そんな重大そうな告白始められても。テスト中だし』

そんなツっこみは気にせず、米川は続けた。
やや躊躇いながらも、しかししっかりと。

『実は…実はっ!俺!米村のことが好きなんだー!!』

『ええぇぇぇ!?』

皆、そりゃもう盛大に驚いた。ていうか驚くなと言う方がムリだった。
が、一番驚いたのは出席番号42番、米村であろう。ちなみにオス。そりゃ驚くよ。

『皆が驚くのも無理はないと思う…自分でもおかしいと思う。けど、本気なんだ!
俺、本当に米村のことがー!!』

『お、落ち着け米川!』

『そうだ!さすがにボーイズラブは俺の守備範囲外だ!』

ツっこみどころが違います安倍さん。

『でも俺は好きなんだーーー!!』

もうこうなったら止められない。誰も彼の暴走を止めることはできない。
いや、唯一止められる人物が存在する。
告白された米村、彼自身以外誰も止められやしない。
どうせ答えはわかりきってる。
さぁ、早く引導を渡してやって下さい米村さん。
そして、皆の期待を背負った米村が、ゆっくりと口を開いた。

『実は、俺も好きなんだぁあああああ!!』

『何言ってんのぉおおおお!?』

止まらなかった。
むしろ、事態は加速した。

『そうだったのか米村…』

うわずった声で呟く米川。
その声には恋する乙女のような響きがあったとかないとか。

『あぁ、俺もずっとお前のこと好きだったんだ…
けど、笑われるか不気味に思われるかと思ってずっと言えなかったんだ』

『そうか…あぁ、米村…』

『米川…』

「米村!」

「米川!」

感極まったように叫ぶと、2人は突然立ち上がり互いの体を熱く抱きしめあった。
もう、お互いを絶対に離さないと言わんばかりに。
誰も2人の愛を止めることなどできない。あぁ、止められるものか。ていうか勝手にして下さい。

『…ナニコレ』

ラヴ・コメです。

『…絶対違う』

その通りだと思います。

「皆、俺達のこと祝福してくれよなー!!」

勘弁して下さいと皆は心の中で呟いた。もちろん愛し合う2人には届かない。
微妙な沈黙に包まれた中、成り行きを見守っていた教官が、おもむろに指をパチンと鳴らした。

「フォーーーーーーーーー!!」

その男は奇声とともに、窓ガラスを叩き割って現れた。
風にはためく赤いフンドシ、まるでゴリラのマスクを被っているかのようなその顔は、まごうことなく体育教師34歳。
お見合い23連敗を記録する男。

先生。どうでもいいけどここは3階です。

もちろんその赤フン男がそんなことを気にするわけがなく、またも獲物を狙う目で教室をサーチ。
即座に目標の2人を捕捉する。

「フォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

心なしかいつもよりも興奮した奇声を発しながら、2人にダイビング。しっかと2人を捕まえた。
だが、2人は決して離れようとしない。
そう、愛する2人を引き離すことなど誰にもできやしないのだ。

「米村!」

「米川!」

「フォーーーーーーーー!!」

どうでもいいが傍から見たらまるで動物園のようだった。
とても見世物としては成り立たないだろうが。
体育教師は引き離すことを諦めると、がばちょと2人まとめて担ぎ上げ、ダバダバとどこかに走り去っていってしまった。
やがて、教室に再び静寂と平和が戻ってくる。
無残にもぶち割れた教室の窓ガラスとか微妙にいなくなってるクラスメイトについては皆目を背けることにした。

『…あいつら、幸せになれるといいな』

心にもないことを仲武は呟いた。

『まぁ、あいつらの幸せも大切だが』

別に大切ではない。

『今大切なのは俺達の幸せじゃないか、仲武?』

『えっと…ゴメンナサイ勘弁して下さい』

丁重にお断りする仲武。さすがに彼はノーマルだった。

『いや、そうじゃなくて』

『じゃあ何だ』

『テストなんだが』

『あ』

慌てて時計を見る仲武。

『終了みたいだぞ』

淡々と告げる安倍。
瞬間、鳴り響くチャイムの音。開放された生徒達の騒ぎ声。
仲武はその中にいて、1人立ち尽くしていた。
手元を見る。白い。白すぎる。
一体どんな漂白剤を使ったんですか?いやぁ柔軟剤は使ってないんですよ?洗剤だけなんですよコレハハハハ。
そんなどこかで聞いたようなフレーズが仲武の頭を支配した。
そんな灰になりかけている男の手元から、無情にも白い紙は回収されていった。

「終わった…」

「まぁそう気を落とすなって」

いつの間にか隣に立っていた安倍が、慰めるように仲武の肩を叩いた。

「何、一瞬だ。思い出にも残らんさ」

フォローになってなかった。

「は、はは、ハハハハ…」

ちょっと涙目になりながら、仲武は乾いた笑いをこぼした。
あぁそうだ。きっとコレは夢なんだ。夢に違いないんだ。夢でなければダメなんだ。
そうすることで彼はとりあえず現実から逃げてみた。
どうせテストの結果が返ってくるまでは平和なんだ。それでいいじゃないか。
とりあえず終わってしまったものは仕方ない。帰ってテレビでも見ようじゃないか。
そうしている内にどうにかなるさ。それに単なる噂かも知れないじゃないか。
そうだそうだ、噂に違いない。そんなバカなことあるわけないさ。
全く、どこのどいつだよそんなつまらない噂流したヤツはよーはっはっはっは

『フォーーーーーーーーー!!』

「お、猪木だ」

安倍がどこか楽しそうに呟いた。うん、何か嘘じゃないみたいですね。
仲武はがっくりと肩を落とし、そのままとぼとぼと帰ることにした。
…うん、とりあえずテスト終わったからそれでいいや。
そう考えながら去る彼の後ろ姿には、そこはかとなく哀愁が漂っていたとかいなかったとか。



数日後、彼は赤いフンドシをつけたゴリラみたいな悪魔に襲われるという、
実にファンタジーな夢を見る程の出来事に遭遇するのだが、それはまた別のお話。



あ、ちなみに安倍さんは何気に合格点でした。



おしまい。



                   - 了


あとがき -

…えーっと。
ゴメンナサイ。始めに謝っておきます。
多分疲れていたんだと思います。テストとかテストとかテストとか。
そんなわけで生まれたこの作品。
ちなみに、友達とかと一緒に作った同人誌的なものに載せたヤツです。
まぁ、楽しんでいただけたら幸い。


03/11/02



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