|
白と黒と永遠と。 - 白い。
世界は、どうしようもなく白く、白く、白く。 目が痛くなるほどのその純白の中に身を置き、僕はゆっくりと白い息を吐いた。 どこまでも続く、白。 どさりと、その場に倒れこんだ。 空を見上げる。 白とも、灰色とも付かない、その色。 粉雪が舞っていた。 ふわり、ふわりと。 時間の進みまでも緩慢になっていくようで。 あぁ、なんて。 なんて穏やかな時間なのだろうか。 この時間が、永遠に続けばいい。 どこまでも、どこまでも。 白に覆われていけばいい。 耳元で、にゃあ、と鳴き声が聞こえる。 白の中にただ一つ現れる、黒。クロ。 「寒いのか」 にゃあ、と一鳴きすると、僕の懐の中にクロは入ってきた。 「お前も、あいつと同じなんだな」 飼い主に似る、ってことか。 あいつも、彼女もよくこうして体をすり寄せてきた。 今でも彼女の言葉をハッキリと思い出せる。 『抱き締めるって…とても気持ちいい』 『そうかい?』 『うん…一つになった気が、するから』 『まぁ、温かいし、ね』 『それだけじゃないよ…人間の腕って、まるでこのためにあるんじゃないかって、そうとさえ思える』 『…そっか』 『うん…いつまでも、いつまでもこうして一つでいられたらいいのに、ね…』 いつまでも、いつまでも。 永遠なんて言葉、あるわけないって僕は言ったけど。 だからこそ願うんじゃない、と君は笑った。 願うのは、届かないからだけど。 届かないってわかってて願うのは、それが現実になって欲しいからで。 現実は、けれど、故に。 いつだって厳しくて。 彼女が僕の前から『永遠』にいなくなったのは、ファーストインパクトの日。 突如到来した破壊に、意志なき殺戮に、彼女は意味なく傷つき。 あと一歩早かったなら。いや、僕が彼女の手をちゃんと繋げていたのなら。 僕があそこにいられたなら。 彼女が僕の腕の中から消えることなんて、なかったのに。 こんな『永遠』なんて、望まなかったのに。 最後の瞬間、彼女は笑った。 あの子を、よろしくね。 それと。 好きだよ。 大好き。 笑い。 そしてソレは、永遠になり。 彼女はもう、ここにはいない。 彼女の腕の温もりが、かけがえのないなものであったということに、今更になって気付いた。 何故君は、今ここにいないのだろうか。 白の中に独り。あまりにも寒くて。寂しくて。 けれど抱きしめる腕は、クロ一匹じゃあまりにも余り過ぎて。 空を見上げる。 今君は、そこから見下ろしているのだろうか? どうだい?世界は、白は美しいかい? 君は白が好きだったね。同じくらい、黒も好きだったけど。 この世界を見て、きっと君は喜ぶだろうけど、悲しむだろう。 白くて、余りにも広くて、白くて。 永遠とも思えるけれど、余りにも寂しくて。 寂しがり屋で寒がりな君は、きっと僕なしじゃ生きていけなかっただろうね。 けれど、それは君だけじゃないんだよ? 本当は、強がっていたけど、僕もとても寂しがりで寒がりだったんだ。 君の腕の中の温もりに、幸せを感じていたんだ。 けれど、それはもうないから。 だから、こんな永遠なんて。 胸ポケットに入れておいた通信機が突然鳴り出す。 ボタンを押し、耳元にあてた。 「…もしもし」 『おい、どこ行ってるんだ?もうすぐだぞ?』 「外が、あまりにも綺麗だから。ちょっと見ていたんだ」 『相変わらずのロマンチストっぷりだな…そんな風景見飽きただろうが』 「飽きることなんてないよ。ここは僕にふさわしいから」 『はぁ?…どうでもいいが、もう戻れ。あと1時間で来るぞ』 「知ってる」 『…バカな考えはやめろ。お前がそうしたって、どうにもならんぞ。彼女は帰ってこない』 「それも、知ってるよ」 『だったら』 「…生きていても、どうにもならないだろう?」 『そんな…』 「僕が生きていなければ彼女が悲しむとか言うつもりなら、勘弁してくれよ。死者は語りはしない」 『だからって…』 「永遠がね」 『あ?』 「永遠が、欲しいんだ」 『突然、何を』 「ここはあまりにも、寒すぎる」 『…』 「それに」 『…それに?』 「どこにいたって、結果は同じことなんだろう?」 『…お前、それ、どこで』 「セカンドインパクト。別名、ラストインパクト。世界はこれで終わる」 『…』 「たとえシェルターに潜ろうと、宇宙に逃げようと。今からじゃ間に合わない。余りにも遅すぎたんだ」 『それでも、少しでも可能性を信じて』 「可能性は、つまりは未来だ。僕にそんなものは必要ない」 『…』 「せめて、君だけでも生き残れるといいな」 『…お前がいなくなったら、寂しいよ』 「そうだね。だから僕は」 ブツッ。 通信を一方的に切り、空に放り投げる。 綺麗な放物線を描き、通信機は白に落ち、やがて白に消えていった。 にゃあ。 懐のクロを見る。 少し寒そうに体を震わせていた。 僕は、クロをぎゅっと抱きしめた。 少し苦しそうにしたが、しかし、震えは止まった。 「やっぱり…」 そこに誰もいないにも関わらず、僕は誰かに向かって、呟くように。 「やっぱり、君じゃなきゃ、腕があまっちゃうよ…」 雪がぼやけて見えるのは。 意識が遠のいているからなのか。 それとも、涙を流しているからなのか。 どちらにせよ。 世界が白いことに、変わりはなかった。 やがて。 世界に雪ではないものが降ってくるが。 そんなことは、彼にはどうでもよいことだった。 - 了 あとがき - たとえばたまには暗い話も書きたいじゃない? とか、そんな理由で。 よく使われるネタですけどね。世界崩壊。 まぁ、自分なりに書いてみようかな、と。 読んでくださってどうもどうも。 よろしければ感想なぞぷりーず。 では。 相変わらずテスト前で切羽詰っている、アキでした。 03/09/13 ∠short ∠index |