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届かない声 - そこは静寂に満ちた空間だった。オレンジ色に包まれたその広い部屋に、彼女は1人、
椅子に座っていた。昼間は生徒達の喧騒や授業による独得の静寂に支配されているその部 屋は、今、真に静まっていた。 僕はその空間に入るのを若干躊躇った。僕が入ることで、その雰囲気を壊してしまいそうに思え、 勿体無く思えたのだ。 だが、このままでいても仕方ない。僕は一度深呼吸をし、一歩踏み出した。幸いにも、 扉は開いており、音を立てずに入ることができた。 「1人?」 何気なく近づきながら、声をかける。彼女はこちらを振り向きはしなかった。 「他のみんな、帰っちゃったよ」 外を見ると、いまだ部活中の生徒達が最後の仕上げとばかりに声を出していた。 「いつまでも残ってても、仕方ないんじゃないかな」 そこで初めて、彼女はリアクションを返した。ふぅ、と溜息をつくと、 「待つだけ無駄かなぁ」 あーあ、と机に突っ伏した。猫のように一旦伸びをして、そのまま動かなくなる。 「何を待ってるんだか知らないけどさ」 僕は彼女の隣の席に腰掛け、諭すように、 「さすがにもう、誰もこないと思うよ」 夕日はだいぶ落ちてきていた。外の生徒達もぼちぼち引き上げの準備に取り掛かっていた。 しばらく、沈黙が続いた。 何か言った方がいいかと、言葉を捜していると、彼女が腕の下から、くぐもった声を漏らした。 「わかってるけどさぁ…」 「うん?」 「もう、きっと来ないって、わかってるけどさぁ」 「うん」 「でもさ、信じたいじゃない?」 「何を?」 「約束さ、したんだから。信じたいじゃない」 「約束、ね…」 彼女の声は、湿っているように聞こえた。 フラれちゃったんだよ。 その言葉を、しかし僕は喉元で止めておいた。言ったところで、どうにかなるわけでもない。 だから、もう帰りなよ。きっともうその人は来ないんだから。 そんな僕の心の言葉が届くわけもなく、彼女は、呟くように語り出した。 「あいつとは、子供の頃からの付き合いでさ」 「うん」 「ずっと、何するにしても一緒だったのよ。出かける時も、悪さする時も、何もかも」 「うん」 「兄弟みたいなもんだった。高校も一緒になって、なんか嬉しくて」 「うん」 「いつの間にか、意識するようになっていて」 「…うん」 「でも、あいつは、ここにいないんだよね…」 それっきり、彼女は黙り込んでしまった。 ただ、時折痙攣するように肩が震えていた。 「約束したのに、なぁ」 その言葉に、僕はただ曖昧に笑い。 「この言葉が君に届くかはわからないけど」 本当に、静かに。ただ、呟くように。 「本当は、こんな形で返事をしたくはないのだけど」 自分に言い聞かせるように。自分自信を納得させるように。 「でも、言っておきたいから。残していくよ」 その言葉を。 「僕も、君のことが好きだったよ。何より大切だった」 吐き出し。 「だから、もう」 彼女の頭を、ゆっくりと撫で。 「僕のことは忘れて欲しい」 その手が、温もりを感じることはなかった。 「…あれ?」 誰かに呼ばれたような気がして、彼女は顔を上げた。だが、そこには誰もいない。 教室はがらんとしていた。外の景色はいつの間にかのっぺりとした闇に包まれていた。 何故自分はここにいるのだろう。 彼女は、何も思い出せなかった。教室で、何かを待っていたような気がするのだが。 「…あれ?」 大切なものだったように思えるのに、彼女はただ自分が泣いていたということしかわからず、 結局その『何か』を思い出せず。 やがて荷物をまとめ、熱を帯びたように温かく感じる頭をかきながら、教室を出て行った。 誰もいなくなった教室の、その真ん中。 彼女が座っていた隣の席に供えてあった花が、風もないのに、震えるように揺れていた。 - 了 あとがき やー、どうもどうもこんにちは。またはこんばんは。 この作品は、「電撃学園物語」に応募したもので、それなりに気に入っております。 優秀作品に選ばれたりしないかなぁ・・・ムリだろうなぁと思いつつアップ。 そんなこんなで。 03/07/18 !-この小説は小説検索エンジン"楽園"に登録されてます- ∠short ∠index |