僕の日常 #2 -


「ねーねー、おにーちゃーん。」


「ん、何だ?」


振り返り、妹の方を見ると、妹は、いつものようにのんきそうに笑いながら


「ゲームしよー?」


「んー、でも今勉強しないと・・・」


「おねがーい。」


「やれやれ、仕方ないなー。」


「やったー!」


こう頼まれると、僕は断りきれない。

僕の妹は、可愛い。そりゃもう、小学校じゃきっと1、2を争う可愛さなんじゃないだろうか。

そんな妹は、兄である僕にべったりである。

やれやれ、と思いつつも、実はまんざらでもない。

そんな妹に、「おねがーい。」をされて、断れたことはないのだ。

そんなわけで、僕達は下に向かう。ゲームは居間にあるのだ。

そして、階段を下りようとした瞬間、


「あなたーー!!」


我が母の、怒声が飛んできた。

それに重なるように、僕の目の前に皿が飛び込んできて、壁にぶち当たり割れた。
やれやれ・・・そーいうことね。


「今度は何が原因?」


「んーとねー、おとーさんがねー、お小遣い上げてくれー、だってー。」


そう言いながら、妹がひょい、と頭を下げる。

瞬間、妹の頭があったところに、包丁が突き刺さる。

今や、妹も空気の流れ、殺気が読める程度にまで成長した。

これを、兄として、嬉しく思うべきなのか、いまいち判断が付かない。

まぁ、とりあえず、妹がゲームをしたいと言ったのは、母と父が相手をしてくれないからだろう。

1人じゃつまらないのだ・・・まぁ、妹にとっちゃ、これを僕と一緒に見たい、

ってのもあるんだろうけど。

とりあえず、僕は妹と一緒にソファに座り、テレビを付ける。

妹は、ゲームの用意をするでもなく、楽しそうにソファにもたれて後ろを見ている。

どうやら、ゲームをする気は全然なかったらしい。観戦するのは1人じゃつまらない、ってことだ。


「今日はどっちが勝つと思う、おにーちゃん?」


「やっぱ、母さんじゃないかな・・・」


そして、僕も観戦することにした。

勝負は、どうやら佳境に入っている模様だ。

状況としては、母が有利。
何せ、台所に陣取っている。台所は、主婦の戦場だから。(ちょっと違う)

対して父は、食卓を倒して、防壁にしていた。

だが、その壁が崩れ落ちるのも時間の問題であろう。

母は、立て続けに皿を投げ続けている。

そんなもの、テーブルの前には割れると、一般の人なら思うに違いない。

だが、それは甘い。

母の投げる皿は、母が毎日洗って念入りに磨いているため、ナイフより良く切れる、

手裏剣のようなモノなのだ。

さらに、母は物を投げることに関しては、暗殺者級。

普通の人には見た目ただの皿でも、母にとっては、それは猛獣すら仕留めることの出来る、

凶器となり得るのだ。

そんな武器に立て続けに攻撃され続ければ、ただの木製のテーブルなぞ、

ゴミになる以外道はない。

そんな解説をしている間に、ほら、あっという間に防壁は崩れ落ちた。

これを勝機とばかりに、さらに皿を投げ続ける母。

それを、テーブルの破片で器用にはじき返し続ける父。

父も、ただ母にやられてるわけじゃない。

こうして続けられる戦い毎に、彼の防御能力も常に向上し続けているのだ。

もしかしたら、今の父の受け流しによる防御は、銃弾すらかわせるかも知れない。

その攻防を続けること、数分。

風向きが、変わった。


「!?」


母の弾切れだ。さすがに、家には無限に皿はない。

それでも、百発は投げたような気がするが。


「隙アリぃ!」


父の目が妖しく光り輝く。ここで勝たねば小遣いは一生安いままだと、彼は必死になっていた。

近くに落ちていた皿の破片を取ると、一気に複数投げる。


「!」


それを、上手に上体を反らすことで母はかわす。

そのとき、母の目は父から離れた。もちろん、その隙に父は攻め立てる。

一気に母に近づいたかと思うと、母の手を引き、台所から引っぱり出す。

普段は食器などを手渡す小さな空間であるカウンター、

その僅かな空間をぬって、器用に母の体を通す。

上体が浮き、体ごと持ち上がったところで、父は母の腕を自分の脇に抱え、

そのまま一本背負いの形に持っていく。

その際、手首を極め、相手を地面に落としたときに肘打ちを入れようとするのも忘れない。

だが、その追い打ちが決まることはなかった。

母は、その父の投げの勢いを利用し、反対側に着地。

そのまま膝蹴りを放って、父を牽制。父から離れる。

絶好の機会を失った父だが、それでも勝負は五分に戻った。

条件が同じとなり、ここからは、本人達の実力のみが試される。

だが、間合いを取ったまま、2人は動こうとはしなかった。

お互い、分かっていた。動けば、やられる。

と、そのとき、付けっぱなしにしておいたテレビから、ドン!と一際大きな音がする。

どうやら、映画のチャンネルにしていて、その映画の中の爆破シーンだったらしい。

瞬間、2人が動いた。

父が、左右にフェイントを入れる。一瞬気を取られる母。

すかさず父が左手でジャブを放つ。それを、右手で受け流しながら、相手の間合いに入る母。

だが、それは囮だった。

父は、間合いに入ってきた母の頭をすかさず両手で抱え込むと、

強烈な右膝蹴りを顔面に叩き込もうとし、

激しくヒットした。

いや、ヒットしたように見えた。

実際には、母は父の力を利用し、相手の膝に頭突きをぶちかましたのだ。

呻く父、もちろん母はその隙を見逃さない。

そのままの体勢で父の右足を担ぎ、すかさず左手首を掴む。

そして、父の体をそのまま持ち上げ、廻すように投げ飛ばす。

激しく横に1回転半した父は、床に頭を強かに打ち付け、ずしん、と鈍い音とともに地面にひれ伏す。


決着。


「やっぱりな・・・」


ふと目の前の映画に目を見やると、ちょうど主人公が佳境を終えたところだった。

その足下には、悪役が、胸から血を流して、ひれ伏していた。

なんか、どっかで見た光景。それも、今さっき。


「面白かったね、おにーちゃん♪」


そう言いながら、妹はテレビを見ている。

一体、映画が面白かったのか、それとも先程の戦いなのだろうか。

もちろん後者なのだろうが、様子だけ見ていると、映画を見終わって満足した、

という平和な光景にも思える。


「そうだね。」
どっちでもよかったので、僕も同意して、妹の髪を撫でてやる。

妹は、それに対して、気持ちよさそうに微笑みながら、僕の肩に頭を乗せてきた。

うーん、平和だ・・・


「2人ともー、デザート食べるー?」


やけにサッパリとした顔をした母が、ニコニコしながら僕達にゼリーを運んでくる。


「わーい、食べる食べるー!」


嬉しそうにゼリーにかぶりつく妹にならい、僕もスプーンを取って、ゼリーを食べる。

母の作るゼリーは、なかなか美味しく、僕も妹も大好きだ。


「はい、おにーちゃん、あーん♪」


「ありがと。うん、おいしーなー。」


「えへへー、じゃ、もう一口ねー。」


「あらあら、仲良いわね、2人とも。」


とても幸せな家庭の風景。

その裏では、ボロボロになり、血塗れな父が、涙を流しながら倒れていた。

どうやら、小遣いの値下げをされてしまったらしい。

しかも、あの激戦の後片づけも。

合掌。

父が勝つ日は、まだまだ遠そうだ。






                    - 了


あとがき -

無し。




!-この小説は小説検索エンジン"楽園"に登録されてます-!

∠long  ∠index