僕の日常 #1 -



あー、お腹すいたなー。
そろそろ下に行こうかな。
今日の晩飯なんだろなー、と。
そうして、階段を降りた僕の目の前に現れたのは、
包丁持った母と、まな板抱えた父と、それを脇で傍観する妹の姿だった。
妹以外の目は、狂気に血走っている。
ため息をつく。
またか…
僕は、その一触即発の空気を避けるように部屋の端を通って、妹のそばに行く。

「今日は何が原因だ?」

そっと耳打ちして訊ねると、妹は愉快そうに、

「おとーさんの浮気だってさー」

「それ、23回目じゃないのか?」

「んーん、違うよー、25回目だよー」

「もうそんなになるのか…」

「そだねー、何時見ても飽きないけどねー」

「のんきだなー、お前は」

「慣れたしねー」

そんなほのぼの兄弟のコミニュケーションの脇では、相変わらず父と母が言い争っていた。

「あんた!一体何回他に女作って私に刺されれば気が済むんだい!」

「確かに、私はもう何度も浮気してしまっている、それは申し訳無いと思っている!だがな…」

「だが?なに?」

「ほら、昔から言うだろう……?浮気は男の甲斐性だと……
 これはもう、男として仕方の無いことなんだ…」

「そのセリフは、聞き飽きたわぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫ぶなり、母は手に持った包丁をぶん投げる。
それは、寸分たがわず、父の顔に向かっている。
だが、さすがに25回目の浮気の父、それを読んで、まな板で攻撃を防ぐ。
カッ、と気持ちのイイ音が響く。
もちろん、母もそれを読んでいた。
それを確認する前に、次の包丁を投げている。
次は、心臓を狙っていた。
誤差は無い。
父は、それもまな板で受ける。
もしかしたら、動体視力と反射神経において、
父の右に出るものはいないかもしれない、というほど父の動きは的確、かつ迅速だった。
恐らく、幾多の死線を乗り越えてきた軍人でも、これほどの反応速度は見せないんじゃないだろうか。

だが、ここで父に誤算が生まれる。
今まで何度と無く包丁を投げて鍛えた母の包丁の速度は、
そこらのダーツの名人を軽く凌駕するほどのスピードだった。
もし、母が裏の世界にスカウトされていたら、そのナイフ投げの腕前は一、二を争うんじゃないだろうか。
そんな速度で投げられた包丁に、長年耐え続けてきたまな板も、限界が来たようだ。
パカ、と綺麗に真っ二つに割れる。

ありがとう、まな板。
そしてサヨウナラ。

だが、父はまだサヨウナラするわけにはいかなかった。
さすがにその顔には焦りが見える。
母が、そんなチャンスを見逃すわけが無い。
両手に包丁を一本ずつ持ち、すかさず連射。
逃げている暇は無い。
そう判断した父は、次の瞬間、その体の柔軟性をいかし、マト○ックスのように上半身を後ろに反らす。
もしこの場に売れっ子映画監督がいたなら、即スカウトしていたことだろう。
どっちも上半身を狙っていた包丁は、見事に父の後ろに飛んでいき、
窓ガラスを叩き割って、外に出ていった。
父は、その体勢のまま、落ちてきた窓ガラスの破片を拾うと、元の体勢に戻った勢いを利用して、
母に向かってぶん投げた。
突然の不意打ち、これは母にとっても驚きの出来事だったんじゃないだろうか。
事実、父はそんなに攻撃に転ずることは無い。
それほど、身に危険を覚えたか。
本能からの反撃は、とんでもない威力を発揮する。
複数投げたその破片は、全てが母に向かって飛んでいた。
だが、さすがに母、正気に返るのが速い。
そのガラスを、全て包丁で叩き落す。
だが、それは父の囮だった。
母の目の前に、父はいなかった。
右か、左か?

「上!」

母が気付いてさっと反応すると、そこには蟷螂のような構えをした父が、襲いかかるところだった。

「くけぇえええええ!!」

奇声を上げながら母に飛び掛る父、その手刀は、
木製バットの一本や二本は簡単に叩き割れそうな勢いだった。
そして、ドスッ、という鈍い音がする。
おお、ヒットか?
だが、それは母には当たっていなかった。

「変わり身!?」

そう、それは、ソファにおかれていたクッションだったのだ。
もしかしたら、母は忍者の才能の方が高いかもしれない。

「遅い!」

気付いたときには、母は後ろ回し蹴りを、父の後頭部に叩きこんでいた。
振り返ろうとした父の横っ面に、ちょうどクリーンヒットする形となる。

勝負有り。
実力の均衡した二人だからこそ、その一撃は致命傷となるのだ。
僕は、この母と父から、それを教わった。
どさ、と無様にその場に崩れ落ちる父。

「あーあ、おわちゃったー。これで、おとーさんの63戦45敗18分けだねー」

つまらなさそうに、のんきな妹は呟いた。
勝ちが無いというのが妙に悲しい。
勝利の余韻に浸る間もなく、母が父の元に近寄り、そっと耳打ちする。

「これで、あなたの小遣いはまた没収ね。
 これに懲りて、浮気するのはやめなさい」

「…く…」

悔しそうに、その場に気絶する父を満足げに見た後、母は台所に向かった。

「今日の晩御飯はー?」

全てを見届けた僕は、ようやく訊ねたいことを訊ねた。

「んー?今日はね―」

振り返って笑う母は、完全に主婦の顔だった。

こーして、今日も平和に一日が過ぎる。

日常ってのは、こーいうことを言うんだろうなー。(違います)






                    - 了


あとがき -

ええと、どうも、アキです
今回、ちょっと暴走してます
なんというか、ただ単純にギャグが書きたかったというか
それで、ほのぼのしてるのに、中身にギャップがある、みたいなのを書きたくて、
今回の話を思いつきました
どうでしたでしょうか?
つまらなかった?
それは仕方ないですね。すみません
まぁ、楽しんでいただけたら、本望です
ではでは





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