約束はクリスタルの輝き #3-
- 君がいた奇跡 another story -



「ここは…?」

目の前の場所は、さっきまでいた病室とは、天と地ほど離れた場所だった。
白く、ただ白く、眩しい場所だった。
身体が軽い。
いや、まるで重みがない。
なんといえばいいのか、足場には何もないのに、しかししっかりと立っているというか、
とにかくそんな感覚だった。
実際、足下には何もなかった。
でも、不思議と恐怖感はなく、代わりにどうしようもない安心感があった。
その白い空間を、俺はただぼんやりと眺めていた。
しばらくして、

「よう」

お呼びがかかった。
振り向くと、そこにはあの時の、

「自称サンタ…?」

そいつがいた。
だが、今のそいつはさっき見たときのような姿ではなかった。
いや、確かに姿は一緒なんだが…どこかに違和感がある、と言う方が正確だ。
それでも、俺は確かにそいつと認識できた。
サンタは、俺の姿を見るなり、ふぅ、と溜め息をつく。

「何でお前がここにいるんだよ」

「それはこっちが聞きたい」

「だからとっとと川から上がればよかったんだよ。無茶しやがるから」

「仕方なかったんだよ…早く見つけたかったんだ」

何となく、会話に自然に乗ってしまう。
どう考えてもよく分からない会話なのに、理解できてしまった。

「そんなんだから、死んじまうんだ」

「…ああ、やっぱ俺死んだのか」

不思議と、確信はあった。
でも不安とか、そーいうのはちっともなく。
むしろ、安らいでいた。

「そうだよ。死んだ」

サンタは、事も無げに告げる。

「そっか…じゃ、あんたは天使ってわけだ。俺を連れに来た」

「そうだとしたら?」

「別に…とっとと連れてって欲しいね。天国でも地獄でも」

そう言って視線を逸らす。
どこを見ても景色に変わりはない。
そんな俺の様子を見て、サンタは呆れたような目で俺を見て、

「お前、冷めてるナァ。さっきは熱のせいで単純に言葉数が減ってるモノだと思ってたけど」

「地だよ。悪かったな。ほれ、無駄口はいいから、とっとと連れてけよ」

だが、相手からの返事はなかった。
イライラしてそちらの方を見ると、そいつは俺を哀れむような眼差しで見ている。

「な、何だよ?」

「お前、そんな若いのに、何の未練もないのか?」

「ないね、そんなの。俺はやるべきことをやって死ねたんだ。んな贅沢言えるか」

「約束も果たしてないのにか」

「は?何言ってるんだ。約束だったら、果たせたよ。
 あんたのお陰でな。だから、何の心残りも…」

そこまで言って、突然言葉を遮られる。

「いや、まだお前は約束を果たしてないな。だから、やっぱダメー」

「…は?」

明るく言い放たれ、俺は呆気にとられる。
そんな俺にお構いなしに、そいつは変わらず飄々と言葉を続けた。

「お前みたいな未練たらたらのまだ先のあるヤツは、ここにはいらないんだよ。
 そんなのばっか受け入れてたら、ここが一杯になっちまうからな。分かったら、とっとと戻りな」

「え、と、どーいう意味?」

しどろもどろになる俺に向かって、そいつは愉快そうに、

「約束はちゃんと守られるような良い子にならないとな。
 そしたら、サンタさんはプレゼントをやらなくちゃ」

「で、でも俺はもう、一つもらってるぞ?」

「ばーか、サンタは気前が良いの。
 分かったら、子供は子供らしく、素直に喜んどけ」

「んな簡単な…」

「つべこべ抜かすな!」

そう言うなり、サンタは俺を思いっきりけ飛ばした。
途端、足下の安定感が失われ、俺は見る見る落下していく。

「うわぁあああ!」

くそ、あんな乱暴なのサンタじゃない。
そう思いながらも、俺の口元には笑みが浮かんでいた。
そして、目をつむり、俺はその自由落下に身を任せた。
最後に、そいつが親指を立てているのを目の端にとらえながら―



#



目覚めたところは、真っ白な空間だった。
…デジャヴ?
それとも、まだ死んでいるのだろうか。
ぼんやりした頭でしばらく考えていると、カチャ、という音とともに扉が開く。
そこから出てきたのは、あのときの医者だった。
ああ、なるほど。
助かった、つーわけか。
とすると、さっきまでのは夢…?

「おや、意識が戻ったようだね」

のんびりとした笑みを浮かべながら、医者は近づいてきた。

「全く、あんな身体で無茶するなんて、とんでもないよ。しばらくは安静だからね」

優しい声で、医者は咎めた。
なんだか、まだ夢の中にいるようだ。
そこで、ようやく俺の思考回路は正常に戻る。
そうだ、サクラは―?
本当に、あいつは無事なのか?
記憶が曖昧で、とても不安な気持ちになる。確かめずにはいられない。

「なぁ、先生、サクラは?あれからサクラのヤツはどうなったんだ!?」

俺の必死の顔を見るなり、医者は呆れた顔になる。

「やれやれ、君達は、自分の心配より恋人の心配かい?
 ホントに、似たもの同士だね」

恋人だ?いや、そんなことより。
君達?
そのことを尋ねようとした瞬間、扉が遠慮げに開いた。
そこに、車椅子に乗ったサクラが現れる。
しばらく中をうかがうように見ていたが、
サクラは、俺が起きているのを見るなり、顔をくしゃくしゃに歪め、泣き出した。
そのまま近づいてきて、俺のベットに顔を埋め、さらに泣き続ける。

「お、おい、サクラ、泣くなよ。どうしたんだよ?」

慌てふためく俺を後目に、医者は静かに病室を出ていった。
だが、サクラは一向に泣きやまない。
どうしたものか。
俺、何かしたか?
しばらくした後顔を上げたサクラの目は、真っ赤だった。
そして、ありったけの声で罵声を浴びせ始める。

「バカ、バカ、バカバカバカバカ!
 心配ばかりかけて!何でそんな無茶したのよぉ!
 死んじゃうんじゃないかって思ったのよ!
 ずっと眠り続けてて、お医者さんはいつ目覚めるか分からないって言うし!
 3日も眠ってたのよ!私、俊がどっか行っちゃうんじゃないかって不安で、不安で…もう、バカぁ!」

そう言って、サクラはまた泣き続ける。
バカ、って最初に無茶したのはお前じゃないか、とか、
俺の方が心配したんだよ、とか、そんなセリフはおいといて。
俺は、とにかく、この泣き虫を黙らせることにした。
優しく、でもしっかりとサクラを抱きしめる。
最初少し驚いていたサクラだが、安心したように俺の背中に腕を回してきた。
そのままの体勢で、俺は落ち着かせるように、言葉をかける。

「その…悪かった。なんつーか、心配かけて。
 でも、お前だって心配かけたんだから、アイコだろ?
 それに、俺がどっか行くわけないだろ?
 まだ、約束だって果たしてないんだからさ」

「約束…?」

不思議がるサクラに、俺は胸元にかけっぱなしになっていたペンダントを取り出す。
そしてそれをサクラにかけてやり、

「遅くなったけど…ハッピーバースデー、アンドメリークリスマス。
 その…よく似合ってる。可愛いぜ」

照れながら、でもハッキリと伝える。
サクラの頬が見る見るうちに赤くなり、うつむいた。

「…バカぁ」

そう言いながら顔を上げたサクラは、涙混じりの満面の笑みだった。
もしかしたら二度と見られなくなっていたかも知れない、あの天使の笑顔。
その笑顔に、クリスタルのペンダントは、とても似合っていた。
やっぱり、こいつじゃないと、ダメだ。
俺がつけてても、このクリスタルは輝かない。
これでいいんだろ、サンタさん?
そう心の中で呟きながら、俺はまたサクラのことを抱きしめた。
その温もりは、やっぱり心地よい。
もう、2度と照れたりしない。
こうすることのできる幸せを、ようやく分かったのだから。



#



「遅い…」

俺は待ち合わせの場所で、時計を見ながら呟いた。
もう、約束の時間を10分過ぎてる。
せっかく日曜は外に出るように心に決めたというのに。
全く、何やってんだ、あいつは…

「ごめーん、遅れたー!」

と、そこにパタパタと足音をたてながら、サクラが現れた。
いつもより、お洒落な格好をしている。

「遅いよ」

「だから、ごめんって。女の子はいろいろ準備があるモノなの」

「大体、なんだってこんな街中で待ち合わせなんだよ?
 近いんだから、一緒に行けば済む話だろ」

「それじゃ感じが出ないでしょ?分かってないナァ、俊は」

「うるさいな、ほら、とっとと行くよ」

そう言うなり、俺はとっとと歩き出す。

「待ってよー」

それに合わせて、サクラも隣について歩き出す。
そのまま、俺達は自然に手をつなぐ。
ふと、サクラの胸元をちらりと見る。
そこには、あの日の約束が、いまだ変わらない輝きを放っていた。







                    - 了


あとがき -

えー、こんにちわ。アキです
さて、今回の話はいかがなものだったでしょうか?
長さ的には、前回の「君がいた奇跡」よりちょい短めくらいですが、
それでもかなり長くなってしまいました…
もう、疲れて疲れて
でも、私的には自分の好きな話が書けてなかなか満足です
いつものように、出来が良い悪いに関わらず
なわけで、感想お待ちしています

さて、今回のいろいろについて
今回感動を目指すはずが、あまり感動っぽくなくなってしまいました
まぁ、感動ばかり書いてても、ワンパターンになっちゃうし…ダメ?
ああ、すみません、未熟な私が悪いです。はい

それと、今作初めての試み、主人公が小学生
いや、一度やってみたかったんですよ。まだまだ若いなー、って感じの
そして何故か書きやすかったりしました。楽しく書けましたし
あ、でも別に私はロリとかショタとかそーいうんじゃないですよ?
ええ、断じてそう言うわけではないのです、はい
でも一度、友人に、君のキャラは小学生くらいに見えるよ、って言われたことあるんで
もしかしたら普段と大差ない、かも
主人公、あまり小学生っぽくなかったですし…
まぁ、楽しんで読んでいただければ、幸いです
これ以上はネタバレになりそうなので、この辺で
願わくば、この小説がちゃんと季節ネタになれるように載りますように…

ゴメン、微妙な季節になっちまいました(笑 "清水"

ああ、なんか初めて後書きらしい後書きを書いた気が。





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∠long  ∠index