本当に必要なもの -


この話は、人類がいつか迎えるかもしれないし、迎えないかもしれない話。

いつか、もしかしたらこうなるんじゃないかという可能性はあるけれど、絶対ではない。

まぁ、そんな話。






時代は、私達が『現在』と呼んでいる時間を遥かに超えたところまで進んでいた。

それは、人類の科学の発達とともに。

これ以上ないくらいの早さで。

あまりにも発達しすぎた『科学』は、もはや不可能という言葉が意味を持たないくらいになり、

『可学』という通称になりつつあった。

全てが自分の思い通りになってしまう世界。

全ての謎が解明された世界。

無駄と呼べるところが一つもない世界。

それはある意味、人を堕落させつつあったが、それでも人は更なる発展を望み続けた。

それが、ギリギリのところで人を人として存在させていた。

少年はそんな時代に生きていた。

そして、一人の少女に出会った。

少女はこの時代では珍しく、本を読んでいた。

「何故、本なんて読んでいるのです?
 今では、頭で念じるだけで、知りたいモノの中身を記憶できるのに。
 時間の無駄ですよ」

少年はそう尋ねた。

すると、少女は本から目を離し、

「その無駄という概念が、今の人々には必要なんじゃないのかしら?」

と、答えた。

少年には、意味が分からなかった。

無駄が必要なんて、そんな情報知らないから。

知ろうとすること自体が無駄となったこの時代では、

誰もがこの答えの意味を理解することが出来ないだろう。

そんな様子を見て、少女は言葉を続けた。

「確かに、すぐに分かっちゃった方が楽よ。
 でも、そんなの何の面白みもない。
 まだ見たことのない話に触れ、その先のまだ見ぬ展開にドキドキさせられ、
 結果を知り、その話の意図を理解しようとする。
 そうした読書の大切さすら忘れてしまっていては、
 もっと大切なことすらどこかに置いてきてしまったんじゃないかしら」

「なんです、その大切なこととは?」

少年は再び尋ねた。

本の中の物語を見て、『次のページの展開がどうなるのか、気になって仕方がない』といった様子で。

どんなに念じても浮かばない情報に、忘れていた好奇心、探求心が彼の中に芽生えていた。

少女はその様子に少し笑みを浮かべ、そして答えた。

「それは、知ろうとすること、学ぶこと。
 何かを学ぶということを学ぶこと。
 それを追求していった結果、その大切な基本を忘れてしまっては、元も子もないわ。
 初心忘るるべからず、という昔の偉人の言葉も忘れるぐらいですモノね」

「…よく、分かりません」

少年は、素直に答えた。

少女は、それを見て穏やかな笑みを浮かべ、

「だったら、あなたはその分からないことを知ろうとすることから始めてみたら?」

そう言った。

その瞳は、何もかも見透かしているような、透き通った瞳。

「…そうですね」

少年も、穏やかな笑みを浮かべ、答える。

何も理解できていない。

分かっていない。

それでも、彼は納得できていた。

これでいいのだ、と初めて根拠もないのに思えた。

もしかしたら彼女は、僕らの完璧な知識を、存在をさらに超えた存在なのかもしれない。

少年は、そう感じていた。

「それじゃ」

「はい」

少女は何事もなかったかのようにまた読書に没頭し、

少年もまた、人工林の並木道に沿って、どこかへと去っていった。

そして、彼もまた読書を始めた。

あの少女のように。

そして、また新たに知った。

  ― 本を読んでいる間の無駄とも思える時間が、余裕が必要なんだ。

と。





                   - 了


あとがき -

こんにちは〜、アキです
相変わらずいろいろとわけの分からないモノ書いてます
誰か読んでくれているとありがたいです

とりあえず、今回はマインドオアシスのテーマ、みたいなものを書いたつもりです
なんというか、今回書いたような余裕、というか
さすがに、あんな時代にまでは進んでいませんが
今の人達も十分余裕というモノがないような気がするので
時計という概念に縛られて、一生懸命になって
その内、この話の中の人間のように目的を見失ってしまうのではないでしょうか
余裕が必要なんだと思います、やっぱり
何かを考える余裕が
このページが、そんな余裕ということを知る場所になったらなぁ、と勝手に思ってます
もちろん、そんな大層なことは出来ないですけど、少しは力になるんじゃないでしょうか

とりあえず、そんなわけで
よくわからないですが、このへんで





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